身代わり 19
(19)
夜明けまえの部屋は暗く、そして冷え冷えとしている。
寒さが堪えるようになってきたな、と行洋は思った。もう四月だというのに。
確実に身体が衰えてきているのだと思い知らされる。
息を吐くと、行洋は碁盤に視線を戻した。
昨夜アキラと打った碁だ。
いつもとかなり違っていた。良い意味でも悪い意味でも、強引なところが強く出た。
その理由はわかっている。
(進藤くんとの対局は、今日か……)
アキラの真剣な表情を思い浮かべる。
打っている最中も、打ち終わった後も、アキラは必死だった。
いつもなら検討をし、助言を与えるのだが、今回はなにも言わなかった。
なにを言っても、今のアキラには何の役にも立たない気がしたのだ。
進藤ヒカルを前にしたとき、アキラは自分の言葉など必要としないだろう。
(ずっとアキラはあの少年のことしか考えていない)
あんなふうにただ一人を追い求めるアキラに、行洋は畏怖さえ感じていた。
それは自分にはないものだった。
もちろん負けたくない、乗り越えたいと思った相手は数多くいた。しかしそれは、アキラの
持つものとは違うものだ。
ここまで、最善の一手を求めて歩んできた。しかしそれは一人でだった。
その時その時に相手はいても、本当の意味で共に歩んできた者はいなかった。
(真の意味で、己を奮い立たせる存在というものに、私は出会えなかった)
だがアキラは出会えた。
もう自分のまえには、そんな相手など現れることはないだろう。
そう考えると、これから先の人生がひどく無味なものに思えてきてしまう。
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