落日 19
(19)
はっと我に返って、伊角は頭を振った。
今、自分は何を考えていた?
耳元で心臓の音が激しく響く。背を冷たい汗が流れ落ちる。息が苦しい。
彼の声が、頭の奥でこだまする。
「許して…伊角さん……」
違う、なぜ、なぜ彼が自分に許しを請うのだ。
そんな事はない!そんな筈はない!!
違う。
あれは俺じゃない。彼をあのようにしたいなどと思った事などない。
彼を傷つけたいなどと、傷付いた彼を更に痛めつけたいなどと、思った事などない。
違う。
彼を憎んでなどいない。
愛しているんだ。守ってやりたいんだ。
俺は、彼を守りたいんだ。
彼がこれ以上傷つく事のないように、彼を脅かす全てから、守ってやりたいんだ。
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