失楽園 19


(19)
 『…彼がオマエに興味を持ったり、ましてや抱こうなんて思わなかったら、――オレを疑った
りしなければ、こんなことにはならなかったのにな』――緒方の落ち着いた声を聞き、ピクリと
アキラの細い肩がふるえた。目を閉じて、アキラはどこからか湧き上がる痛みに耐えるように
ぎゅっと拳を固めた。
「だって……!」
 血を吐くように絶句したアキラをどう思ったのか、緒方は口元だけでクスリと笑い、自分の
下に力無く横たわるヒカルを見下ろした。光を無くした大きな瞳は、どこを見ているとも判らない。
 緒方は頬を撫で続ける手をスッとずらすと、胸の赤い飾りを中指と親指で摘み、人差し指の爪先で
その突起の僅かな窪みを刺激した。
「あ…、んっ」
 ヒカルの口から、吐息のような喘ぎが漏れる。ヒカルはそろそろと右手を持ち上げると、開いた
口に人差し指を折り曲げて咥え、それを幼子のように無心に吸っていた。
「進藤。――言っておくが、これで終わったわけじゃない」
 優しい口調で囁きながら、ヒカルの口に親指を添えて軽くこじ開ける。ヒカルの口は容易く開き、
緒方が軽く腕を引くと、ヒカルが吸っていた人差し指はと唾液の糸を引きながら易々と離れた。



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