夜風にのせて 〜惜別〜 19


(19)

十九
早朝、あの川べりの道を歩く男性がいる。あれから少し腹も出て白髪交じりの頭になった
高橋だった。手には大きな封筒を持っている。
東の空から太陽の姿が見え始めると、高橋は封筒から台紙を取り出した。そして太陽の光
を見せるように写真を掲げる。その写真には学生服の少年と赤いロングドレスの妖艶な女
性というアンバランスな組み合わせの二人がうつっている。ひかると明だった。
ひかるの死から数年後、社会人になった明が過労で亡くなったという知らせを聞いた高橋
は、形見分けでもらったこの写真を持って、毎朝二人がしていたようにこの道を散歩する
ようになった。
明は結局誰とも結婚することなく、ひかるを生涯愛し続けて亡くなった。
高橋は二人が形として結ばれなかったとしても、心が結ばれていたのだから幸せだったの
だろうと思った。だが早すぎた二人の死に、医者として自分が無力な気がした高橋は、罪
を償うかのようにこの川べりの道を毎朝訪れた。そして朝陽に向かって祈る。今度こそ二
人が結ばれるようにと。
高橋はそれをいつまでも繰り返した。

その数十年後。
二人は再び出会うことになる。だがその時の記憶などない。けれども二人は自然と互いを
求めた。過去に悲しい物語があるとも知らずに。


                             〜惜別〜 終わり



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