○○アタリ道場○○ 19 - 20


(19)
──大自然と人間の熱い戦い
そんなキャッチフレーズが、ボクの脳裏にとっさに浮かびあがります。
でも、その戦いの結末をボクは見届けることは出来ませんでした。
サメのヒレに噛みついた緒方さんは、ボロボロになり逃げていくサメに
懸命にしがみついたまま、
「フカヒレ──!、キャビア──!」
とだけ叫ぶと、キラリと海の彼方に光り輝き、そのまま姿が見えなくなりました。
「緒方さん、キャビアに出来るサメが生息するのはカスピ海沿岸です」
ボクはそっと教えてあげました。(←心の中で)
ボクは、このメンバーで出かけるのは、もうこれっきりにしようと固く強く
心に誓いました。
・・・・・・ああぁあああ、お父さん・・・・、あっという間に陽が暮れて辺り一面の海
が金色に染まりました。
心和む風景だとは思うんですが、生憎ボクの心の中はブリザードが吹き荒れて
いて、イマイチ感動できません。
ある意味で今年は、とても思い出残る印象深い夏になりそうです。

・・・・・お父さん、南の空に一番星が見えます。
なぜか、その光がボクの目にとても沁みるんです。



・・・・・・ううっ・・・・・早く家に帰りたい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあぁ。(←溜息)

(おかっぱの国から2003・夏ノ巻  完)


(20)
<おかっぱの国から2003・秋の巻>

(1)
久しぶりに我が塔矢家では親子三人が揃い、静かな秋の日を楽しんでます。
都会の木の葉が赤や黄色、そして茶色に色づいて、秋を通り越して冬がすぐ近くに
佇んでいる気配すら感じます。
今年は夏や秋が短いようですね。

今日は恒例の研究会の日ですが、少し趣向を変えて場を庭内に移すことに
なりました。
ボクの家の庭には大きな紅葉の木があり、葉が真っ赤に染まってとても綺麗です。
その木の下にゴザを敷いて、お父さんや門下生達が碁を打つのです。
深紅の紅葉のはらはらと風に舞うなかで碁を打つ・・・・・・絵になる風景だと思います。
爽やかな秋風が庭を吹きぬける中、お父さんが碁盤前に座り、研究会が始まった
ちょうどその時です。

お父さんの首のえり口に、紅葉の木から毛虫がポトリと落ちるのをボクは目撃
しましたっ!
でも真剣に門下生達と碁の検討をしているお父さんは、その事に気付いていない
ようです。いえ・・・、お父さんはわかっているようで、身体をプルプルと小刻みに
震わし、眉毛をビクビクと微妙に動かしています。
ああ、そうなんですね。
元名人という名に恥じない立ち振る舞いはしまいと思い、耐えているんですね。
お父さんがそのようにされるのなら、ボクもこの目で見たことは忘れましょう。
だけど顔中に脂汗をかき、ゴザにカリカリと爪をたてている姿・・・・・・・。
ボクは見るに耐えませんっ。

──お父さん男はツライですね・・・・・。



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