金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 19 - 20
(19)
次の駅に着いたら、ヒカルを迎えに行こう。彼が何処まで行くつもりかはわからないが、
こうなったらとことん付き合う。ヒカルの気がすむまで、ずっと一緒にいよう。アキラは、
ホームに電車が入っていくのを目の端に映しながら、ヒカルを見つめた。
ところがその肝心の相手は、ドアが開くと同時に、またもやアキラを残して飛び出して行ってしまった。
もういい加減に追いかけっこは勘弁して欲しい。必死で追い掛けるアキラの前をヒカルが
駆ける。ヒラヒラ軽いプリーツスカート。
あ、まただ―――――
こんな光景前にもあった。でも、それが何時、何処でだったのかまでは思い出せない。
ふと目を上げると、僅かだが距離が開いているように見えた。アキラはさっきみたいに
引き離されないように、考えることをやめた。
改札を抜ける直前で、ヒカルを捕らえた。捕まえたその腕を力任せに引き寄せると、彼は
簡単にくるりとまわってしまった。そして、そのままバランスを崩して、倒れかけた。
「わわ…っ!?」
慌ててヒカルの腋の下に手を差し入れて、彼を支えた。
腕に感じる彼の重みにドキリとした。こんな風に触れるのは初めてだった。掌に彼の鼓動が
伝わってくる。
ヒカルは支えている腕に身体を預けるようにして、ボンヤリとアキラを見上げていた。
まだアルコールが抜けていないのか、目元がうっすらと赤い。
そんな目で見つめられると誤解してしまう。首を振って、右手でヒカルの脇を支えながら、薄い背中に左手を回した。
『進藤って…やっぱり細い…』
頭の隅でそんな感想を抱いた。
アキラはヒカルの身体を少し持ち上げ、しゃんと立たせた。
(20)
最初は茫然としていたヒカルの表情が見る見る険しくなっていく。ヒカルはキュッと唇を
噛みしめると、アキラに向かって怒鳴った。
「バカ!マヌケ!塔矢の役立たず!オマエのせいで、チカンにあったじゃねえか!」
「は…?」
猫のようにふーふーと逆毛を立て、アキラを威嚇する。
突然どうした言うのだろう?チカンにあってショックを受けたのだろうか?だが、これに
関しては自分にだって言い分がある。
「キミが勝手に離れたんじゃないか……」
「だって…!」
淡々としているアキラと対照的に、ヒカルは既に半泣き状態だ。
「だって…本当にチカンされるとは思わなかった…!」
ヒカルの両方の目から、涙がポロポロ零れ始めた。
これは反則だ…どう見ても自分の方が悪者ではないか…周りの視線が痛い。いや…それよりも
胸がズキズキする。
「ゴメン…悪かったよ…」
アキラは一言そう謝ると、しゃくり上げるヒカルの手を引いて改札を出た。あそこはあまりに
人目がありすぎる。静かな場所に行きたかった。
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