交際 19 - 20
(19)
ヒカルの誤解が解けてホッとした。アキラは、襖を開けて、隣の部屋に布団を運ぼうとした。
それを持ち上げたとき、
「わざわざ二部屋も使わなくても、ここでいいじゃん。」
と、ヒカルがアキラの腕を押さえた。
「さっき、そう言っただろ?」
聞いていなかったのか?と、不思議そうな顔をしている。
今度はアキラの方が驚いて、ヒカルをまじまじと見つめてしまった。ヒカルは、ニコニコと
笑っている。アキラの本当の気持ちを知って、すっかり機嫌も直っていた。
「……でも、社と…その…」
ハッキリ言っていいものか…。ヒカルの無邪気な顔を見ると、アキラは先を続けることが
出来なくなった。
「え?」
ヒカルがアキラの顔を覗き込んできた。大きな瞳に自分の狼狽えた顔が写っている。
―――――どうして、こんなに無防備なんだ…?
社にいきなりキスをされて泣いたんじゃなかったのか?その社とどうして同じ部屋で
寝る気になれるんだ?警戒心ってものが、ヒカルにはないのか?
ヒカルはアキラを無視して、さっさと布団を敷き始めた。
「進藤、待って…」
アキラは、ヒカルを止めようとしたが、その時、社が戻ってきてしまった。
(20)
「あーエエお湯やった。」
部屋に入ろうとして、ギクリと足を止めた。二つ並んで延べられた布団を交互に見比べた。
「………え~っと…もしかして、進藤と一緒なんか?」
アキラの方を振り向いて、訊ねた。
彼が口を開こうとしたとき、ヒカルが憤慨したように言った。
「なんだよ!不満なのかよ!」
不満がどうとかの話ではないのだが……。アキラがそれを承知するとも思えないし…。
「進藤!」
アキラがヒカルを自分の方へ引き寄せた。正面から、ヒカルを見据える。その表情は
険しかった。
「な、なんだよ?」
ヒカルには、彼が何故怒っているのかがわからないらしい。
『進藤…塔矢はオレがお前に気があるん知っとるんや…』
ヒカルは、キスをされたことを社の「冗談」だと信じているらしいが、実際はそうではない。
確かに、最初は気の迷いからだったが、今はヒカルが可愛くてしょうがない。ヒカルの
無邪気な笑顔や、少し生意気な仕草を見ると、抱きしめてキスをしたい衝動に駆られる。
そんなわけで、ヒカルと同じ部屋で寝るのは、とにかく勘弁して欲しい。ハッキリ言って
自信がない。
アキラは切れ長の瞳を更に吊り上げて、自分を睨み付けている。そんなに睨まれても
自分だって困る。止めるんだったら、あんたが止めてくれ。自分はヒカルを拒否するなんて
絶対できない。
「もう!なんだよ、オマエら!ハッキリ言えよ!」
ヒカルがイライラと言い放った。社もアキラも何も言わない。と、いうより、言えない。
「もうイイ!オレ、寝るからな!」
ヒカルは布団に潜り込み、二人に背中を向けた。
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