初めての体験 19 - 22
(19)
ヒカルは、自分のシステム手帳をじっと見つめて考えていた。名前が幾つか並んでいる。
『・・・偏っている。』と、ヒカルは思った。一人例外はいるが、それ以外は全て、若手の名前だ。もっと視野を広げなければ・・・。強くなるためには、選り好みをしていてはだめだということは、倉田で勉強済みだ。
手始めに、よく知っているあの人からにしようか。
院生が帰った後の棋院の大広間、篠田も帰ろうと腰を上ようとしたとき、入り口に人影が見えた。首だけだして、こっちを覗き込んでいる。篠田はその顔をよく知っていた。
「進藤君。どうしたんだね?」
今日は日曜日。プロであるヒカルの手合いの日ではない。ヒカルは訝しんでいる篠田の顔を照れくさそうに見た。
「篠田先生・・・。オレ、先生にお礼を言おうと思って。」
「お礼?何のことだね?」
ヒカルは続けて言った。
「オレがプロになれたのは先生のご指導のおかげです。」
「いや、それは進藤君が、がんばったからだよ。」
篠田はヒカルの言葉を嬉しく思った。眼鏡の奥から優しい目を細めてヒカルを見た。
院生師範の篠田はやんちゃで明るいヒカルを目にかけていた。ヒカルは篠田の前に正座した。
そして、
「先生のおかげです。本当にありがとうございます。」
と、言ってヒカルは篠田の手を両手で握った。
「し・・・進藤君!?」
篠田は狼狽えた。ヒカルが篠田の掌を指でくすぐったり、撫でたりしたのだ。
そんな篠田にヒカルは顔を近づけて言った。篠田の知っているヒカルではなかった。
「せんせい・・・お礼がしたいんです・・・」
ヒカルの唇が妖しく動く。ヒカルの瞳に囚われたように、篠田は動けなくなった。
(20)
両肘で体を支えている体勢の篠田にのしかかる。そして、篠田の眼鏡を外して、あえいでいるその唇に深く口づける。ヒカルの舌が篠田の中に差し込まれた。
ヒカルは篠田の上顎を舐めたり、舌を吸ったりした。ヒカルの舌と唇が篠田の口の中を愛撫し続けた。
ヒカルの指がネクタイをはずし、シャツのボタンを一つずつはずしていく。
アンダーシャツをズボンから引き出して、そのまま、まくり上げた。
「先生・・・オレの次の手わかる?」
ヒカルがクスクスと笑いながら言った。ヒカルの舌が篠田の首筋を舐め、鎖骨へと滑っていき、それから乳首を舐めた。篠田の体がふるえた。
「し・・・進藤・・・やめなさい・・・」
篠田が呻いた。ヒカルの手が篠田の股間へと伸びた。
「先生・・・やめて欲しくないんでしょ?そうだよね?」
ヒカルが篠田のズボンのファスナーをおろして、中身を取り出した。
それはもう立ち上がり始めていた。
篠田は必死で誘惑と闘った。ヒカルが与える快感に耐えようとした。
院生は篠田にとって、自分の子供も同然だ。いくら何でもこんなこと・・・!!
ヒカルは、篠田をさすっていたが、なかなか思うようにならない篠田に焦れた。
「先生・・・。オレのこと嫌い?」
ヒカルが潤んだ瞳で篠田を見つめた。涙をにじませ、声には悲しみを含んでいた。
その目を見た瞬間、篠田は陥落した。ほんの少し残っていた理性を完全に手放してしまった。
ヒカルは満足げに笑って、固まったままの篠田から、一旦離れた。そして、服を全部脱ぎ捨てて、鞄の中から、何か液体の入った小さな瓶をとりだした。
ヒカルは小瓶を傾けて、中の液体を手に塗った。
ヒカルは、篠田に見えるように大きく足を広げると、指を後ろの入り口に差し込んだ。
「ああぁん」
ヒカルは自分が与える刺激に耐えかねて、あえいだ。指を一本ずつ増やしていく。
「あ・・・あん・・・ンン・・・ああん」
指が出入を繰り返す、そのたびにいやらしい音がした。後ろをなぶりながら、自分で乳首を弄ぶ。口を半開きにして、赤い舌で唇を何度も舐めた。
唾液が口の端から喉元へと伝った。
そんなヒカルの嬌態に篠田は完全に堅くそそり立っていた。
(21)
ヒカルが篠田に跨った。
「・・・し・・・ん・・・ど・・・く・・・ん・・・」
篠田はヒカルを苦しげに見つめた。
ヒカルは篠田に笑いかけて囁いた。
「先生・・・すぐ・・・すぐに気持ちよくしてあげるから・・・ね・・・」
そして、篠田自身を持って位置を確かめると、そのまま腰を沈めた。
「うん・・・あぁ!せん・・・せ・・・どう・・・?」
ヒカルが動くたびに、今まで経験したことがないような快感が押し寄せてくる。
「せんせ・・・いぃ・・・ああ・・・ん・・・くふ・・・」
篠田の頭の中は真っ白になった。
「あれ?進藤。この篠田先生って誰?」
ヒカルのシステム手帳をめくりながらアキラが訊ねた。
「ああ。塔矢は知らないんだ?棋院の院生師範。」
「ああ・・・。それでいつもと違うページに書いてあるんだ。」
「さすがだよ。一筋縄じゃいかねーんだぜ。でも、おかげで新しい手を
思いついたけどね。」
篠田先生・・・指導力はピカイチ!現役時代に対局したかった。・・・おしい。
ヒカルはクスクスと思い出し笑いをした。日曜日のことを思い出したのだ。
そんなヒカルを見て、アキラは複雑だった。ヒカルが楽しそうに、院生時代を思い出しているように見えたからだ。
アキラは、院生時代のヒカルをよく知らなかった。ヒカルと思い出を共有できないことを悲しく思い、ぽつりと呟いた。
「ボクも院生だったら・・・進藤と一緒に指導してもらっていたのかな?」
「かもな。そしたらもっと早く塔矢と・・・」
ヒカルは上目遣いにアキラを見つめて言った。そして、自分の指をアキラの指に絡ませて、アキラの唇にチュッと軽くキスをした。
そのあまりの可愛らしさに、アキラはたまらずヒカルを押し倒した。
<終>
(22)
「せっかく訪ねてくれたのにすまないな。今日はアキラは出かけているのだよ。」
と、アキラの父・塔矢行洋は言った。もちろん、ヒカルはそのことを知っていた。
が、それを口に出す必要はない。そして、表面上は、いかにも残念そうに言った。
「そうですか・・・。残念です。」
ヒカルのそんな顔を見て、塔矢行洋は、
「まあ、せっかく来たんだし一局打っていきなさい。」
と、言った。ヒカルの顔がパッと明るくなった。
「はい。是非、おねがいします。」
ヒカルは笑顔で言った。行洋は苦笑しながら、言った。
「今日はあいにく、妻も出かけているのでお茶もだせないが・・・。」
「気を使わないでください。」
と、ヒカルは殊勝に答えたが、実際はそのことも、チェック済みであった。
行洋が、ヒカルの打った手を一つずつ解説していく。ヒカルは行洋の指先を見つめながら、
真剣に耳を傾けた。
碁笥を碁盤の上に置き、ヒカルは改めて、行洋の横に座り直して、頭を下げた。
「先生、今日は本当にありがとうございました。」
「いや、かまわないよ。また、いつでも来なさい。」
と、行洋は笑顔で答えた。行洋はヒカルに好意をいだいていた。囲碁の腕もさることながら、
明るくて、人懐っこい少年。そして、アキラの親友でもある。同じ年頃の友人のいない息子の
唯一無二ともいえる存在の少年である。気に入らないわけがなかった。
そのお気に入りの少年が行洋を恥ずかしそうに見つめて言った。
「先生。こんなこと言ったら怒るかもしれないけど・・・。ホントはオレ、もし、
先生に勝てたら・・・先生に頼みたいことがあったんです・・・。」
「何だね?言ってみなさい。できることならかまわないよ。」
行洋は笑みを浮かべた。息子のアキラは周りに大人が多いせいか、大人びた少年だった。
ヒカルはまるで正反対、実際の年齢よりずっと幼く見えた。行洋は、この少年の頼みを聞いて
あげたくなったのだ。
「ホント?ありがとうございます!」
ヒカルは、行洋にいきなり抱きついた。
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