平安幻想異聞録-異聞- 191


(191)
「そう、つんけんするな。父として何かしてやりたいと思うたまでだ」
「貴族の愛情とは、随分都合の良い物のようですね。特にあなた様のような
 大貴族ともなれば。貴族の愛情は甘い蜂の蜜のような物です。見返りに
 毒を持った針に刺されて命を落とす覚悟もしなくてはなりません。私の
 母のように」
行洋が佐為を見た。佐為も行洋を見返した。
「まだ、私を信用していないのか?」
「いいえ、母を愛していたという貴方の言葉を、今の私は信じていますとも。
 私を心に掛けて下さっているということもです。私の母もずっと貴方を愛して
 いました。しかし、それゆえに命を落としました。私が信用していないのは
 行洋殿ではありません。内裏に生きる貴族です」
「そなたも貴族だと思ったがな」
「藤原行洋という男は確かに母を愛していましたが、同じ藤原行洋とい名の貴族は
 その愛を踏み台にした上で捨てました」
「…………」
「貴方のことを許していないわけではありません。私の母はそれで満足だったの
 ですから、そういう愛、そういう生き方もあるのでしょう。ですが…」
佐為は、内裏で最大の権力を持つこの貴族を、恐れげもなく睨みつけた。
「母を哀れと思いながらもああも簡単に捨てて見せた貴方のこと、私や…まして
 数いる検非違使のひとりでしかない近衛ヒカルのことなど、苦もなく利用して
 みせるのでしょう」
「佐為…」
「私には母のような生き方はできません。近衛ヒカルと私の間のことについては、
 口出し無用。此度の近衛ヒカルの任官の件の不正について、そちらでお調べに
 なるのは勝手ですが、かの検非違使の身の上を貴方の政治謀略に利用したり、
 万一にでも彼の身が傷付くようなことがあれば、私は今度こそ貴方を許しません!」
その押さえた口調のなかにも秘められた激しい怒りに、行洋は、むしろ感心した
ように佐為の言葉を聞いた。
「もしそのような事態になったときは、私が知る貴方の過去の行状、そして
 私の母と貴方の関係も、公卿の方々や帝の御前にてすべて白日の下に告白し、
 囲碁指南役も辞去したうえで、ヒカルと供にこの都を出ますっ!」
佐為は行洋の横をすりぬけ、清涼殿を出た。ただの一度も振り返らなかった。



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