平安幻想異聞録-異聞- 194
(194)
座間邸に帰り着き、太刀も取り上げられて、自室でぐったりと体を休めていた
ヒカルは、耳を撫でるその風の音に、頭をもたげた。
懐しい音だった。
自分の体の重さも忘れ、ヒカルは庭に飛びだしていた。
侍女があわてて連れ戻そうとヒカルの腕を取ったが、振り払った。
ヒカルはその風の音をよくしっていた。
かの妖怪退治の時にいつも聞いていた旋律だった。
佐為が指示した場所にたどりつき、妖怪の出現を待つ間、じれて落ち着きの
ないヒカルのために佐為がよく奏でてくれた曲だった。
楽曲には疎いヒカルだったが、佐為の笛の音色だけは絶対に間違えない
自信があった。
ヒカルは、笛の音が絶えるまで、じっと庭に立ち尽くしていた。
錦秋の空を渡って、ヒカルに届いたその笛の音が、本当に佐為のものだったのか。
座間邸は二条、佐為の自邸は四条、風の方向さえあえば届くという距離ではない。
だが、その音色は確かにヒカルの耳に残って、頭の中で反響していた。
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