平安幻想異聞録-異聞- 196


(196)
夜陰に乗じてするすると走る影が二つ。
建物の影から影へ隠れて、検非違使庁の敷地に滑り込んだのは、黒い布を
かぶった藤原佐為と賀茂アキラであった。
「昨日は南と西を調べました。今日は棟の北と東を」
「では、私が北を」
「ぼくは東を調べます」
二人はそうして一刻半程の間、建物の下や、周りの土に掘り返した後が
ないか調べ、建物近くの木のうろ、根元、潅木の茂みまでわけいって、何か
妖しげな痕跡はないか探した。
「アキラ殿、いかがです」
大きな石をどかして、その下を検分していたアキラは、後ろから
掛けられた声にただ首を振った。
「今まで、探索した中で、我々の見逃しがあったとは思いたくは
 ないですが。しかし、これで近衛が日常で出入りする場所、呪に必要な
 彼の「匂い」の痕跡が残る場所は、あらかた探し終わってしまいました」
佐為の手元にある紙には、アキラのいうところの『蠱毒の壺が埋められている
可能性のある場所』が書き連ねられており、それは、一行を残して塗り
つぶされていた。
「後はそこだけです」
アキラが立ち上がって、佐為の方に向き直った。
「ですが、私はヒカルからは何も……」
「わかっています」
佐為は手元の紙を見た。
可能性がありながらまだ探されていない場所がある。
すなわち、近衛ヒカルがあの夜、暴行を受けた場所であった。



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