平安幻想異聞録-異聞- 197


(197)
「近衛は検非違使の務めの帰りに、かの者たちに乱暴されたと聞きました。
 と、すれば、この検非違使の庁の棟と近衛の家の通いの道の間の出来事。
 このあたりは出自の確かな貴族の屋敷も多く、そのような暴行を働いて
 人目に付かない場所、誰も見咎められない場所などたかが知れています。
 端からそういった場所を洗い出し、調べていけば……」
「違うのです、アキラ殿。ヒカルはあの日、検非違使庁からの帰り道に
 襲われたわけではないのです」
「……なんですって?」
アキラは言葉を止めた。
「あの日、ヒカルはいつも通り、夕刻に囲碁指南の務めを終えた私を
 家まで送り届けてくれた後、もう一度出掛けているのです。この京の都の
 町の外へ」
「出掛けた先のお心当たりは?」
「おそらく、清原頼業様の廟」
「『桜の宮』ですか?」
その廟は故人を偲んで、頼業が愛した花、桜が多く植えられているので
そう呼ばれていた。
佐為が頷いた。
「祈念神石の話は御存知ですか?」
「はい。廟内の石を持ち帰って祀れば願いがかない、願いがかなえられれば、
 新しい石を添えてにそれを廟に返しに行く……というのが宮中の女房たち
 の間で、新しいまじないとして流行していると」
「そうです。しかし女房達は自分で廟に詣でることはまずありません。衛士や
 検非違使にそれを頼むのです。ヒカルもあの日、私を自宅まで送った後、
 これからどこぞの女房から頼まれた石を『宮』まで届けに行くのだと言って
 いました」



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