トーヤアキラの一日 2
(2)
それはアキラにとっては他に替えようも無い至悦の時間なのである。生涯の
ライバルであるヒカルと碁を打つのは、他の誰と打つ時よりも気持ちが高揚するし、
勉強にもなる。しかも最近では布団に入る前に、必ず10秒早碁を打って、勝った方が
夜の主導権を握る事が出来る、というゲームを始めたのである。
今日は2週間振りにヒカルが泊まりに来る事になっている。今日も何が何でも
10秒早碁に勝たなくてはいけない。そのためにちゃんと準備もしているのだ。
勝ったその先の事を考えると、どうしても顔が緩んでしまうアキラだった。
古い家ではあるが、母の明子は新しい物好きなので、風呂もちゃんと最新式の
設備が備わっている。トイレも洋式のウォシュレット付きだし、台所も最新の
システムキッチンになっていて、ビルトインタイプのディッシュウォッシャーも
付いているくらいだ。前は良く、弟子たちが集まって食事をしたり、泊まって
行ったりしたので、不便が無いようにしてあるのだった。
鼻歌でも歌いたい気分でアキラはシャワーを浴びる。バスタオルを巻いた姿で
ドライヤーで髪を乾かして、浴室をチェックする。
「よし」
そう言って自室に戻ると、下着とシャツ、靴下、ズボンを身に付ける。昼には出か
けなければいけないので、それを考えてネクタイを選んで上着と共にハンガーにかけ
ておく。
時計を見ると、8時少し前を指していた。
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