検討編 2
(2)
「あれ?休みじゃねぇの?電気もついてないし…」
「ああ、うん、そうだけど、大丈夫だよ、鍵持ってるから。」
もしかしたら今日は囲碁サロンは休みだったかもしれない、とは思っていた。
けれど知らない碁会所に飛び込むのは嫌だったし、鍵があるから入れないわけじゃない。
休みなら休みでゆっくり検討できるからいい、そう思ってここに来た。
アキラはキーホルダーの中の鍵を使って開錠し、普段は自動のドアを手で開けた。
入り口近くのスイッチを入れると、ぱっと全体に灯りがついて、ヒカルは思わず目を瞬かせた。
ここに来るのはいつ以来だろう。
ここから全ては始まったのだ。
「そうだ、」
ヒカルの感慨には気付かないのか、アキラは何かを思いついた、というような声をあげた。
「こっち、来て。進藤。」
アキラは奥へ向かってずんずんと歩いていき、奥のドアを開ける。
「普段はあんまりこの部屋は使わないんだけどね。今日は誰もいない事だし、特別に…」
その部屋には応接セットがしつらえられており、当然のようにテーブルの上には碁盤と碁笥が置いてあった。
電気を点けようとカベを探っているアキラの手をヒカルが掴んだ。
「進藤?」
「塔矢…」
暗い部屋に一歩足を踏み入れかけたアキラが、振り返ってヒカルを見る。
「しん……」
闇と光の境界で熱くアキラを見つめるヒカルの眼差しに、言葉を失った。
アキラの目を見つめたまま、ヒカルの目がゆっくりと近づいてくる。
眼前に迫る距離に耐えられずに目を閉じると、唇に柔らかな温もりを感じた。
どうして、と思いながらも心の片隅では、これを期待して自分は誰もいないここへ来たのかもしれない、と思う。
昼間のように強引ではない、そっと触れるだけのそれに、全身を緊張させて耐えた。
動けない。息をする事もできない。身体が小さく震えているような気がする。
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