無題 第2部 2
(2)
だが眠りの中でも悪夢がアキラを苛んだ。
「オマエとはもう打たないぜ」
自分を拒否する背中を必死で追う。
やっと追いついて、肩を掴もうとした瞬間、自分の肩が掴まれる。
嫌だ、放せ、と叫ぶアキラを聞きもせず、その手はアキラの身体を抱きすくめる。
手の中からやっと掴まえた肩が逃げていく。遠くで笑いながらこんな風にアキラに告げる。
「…さん達と…囲碁部で、やってくんだ。オマエとはもう打たない。」
その声を追いかけたいのに、闇の中から大きな手が彼を捕らえて放さない。
明るい光の中で、彼は笑っている。
笑っている。沢山の人に囲まれて楽しげに、アキラの苦しみなど違う世界の事のように、笑っている。
目は光を求めているのに、身体は闇に絡め取られ、外から、内から、彼の感覚を揺さぶる。
闇の仲から荒い息と掠れた声が彼の名を呼ぶ。
その声に、アキラは、違う、あなたじゃない、と必死に叫ぶのに、そう叫ぶ自分とは別に、自分に与えら
れた刺激に溺れ、更に貪欲にもっと多くの刺激を求める自分がいる。
いやだ、やめろ、と誰に向かってか―自分に向かってか―叫ぶ声が闇に吸い込まれる。
闇の中で精神と肉体が引き裂かれ、引き裂かれながらも落ちていく自分を感じる。
天上の光が彼を嘲笑うかのように輝いている。どんなに手を伸ばしても、その光には手が届かない。
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