浴衣 2
(2)
僕自身は応えたつもりでいるんだが、どうも…進藤は言葉が欲しいらしい。
だけど、進藤だってはっきりと「好きだ」と言ったわけじゃないんだ。
……いや、気持ちは十分伝わっている。でも、「好きだ」と言われてもいないのに、「好きだ」と僕のほうから言うのは、どうも気恥ずかしい。
それに、忙しくてゆっくり顔を合わせるひまもなかったんだ。
棋院で顔を合わせた折、近況を伝えるついでに「好きだ」と言うのか?
それはいくらなんでも即物的だと、僕は思う。
そういう事情を進藤にわかって欲しいのだが、彼はどうやら待ちの姿勢で。
物欲しげな表情で、僕を盗み見るのはやめて欲しいものだ。
以前は頻繁に電話を掛けてきたくせに、この一ヶ月ほとんどなかった。
おかげで、久しぶりにこちらから電話を掛けたんだけど……、受話器を置いて思ったことは、早々に携帯を買おうということだった。
後ろめたいわけじゃないが、居間と廊下では距離があったけど、両親が寛いでいるすぐ近くで進藤と話すのは、なぜだか酷く緊張したんだ。
「アキラさん、悪いけれど、帰りに朝顔の鉢を買ってきてくださる?」
「お安いご用ですよ」
碁笥に石をかたしながら答えると、母は赤紫がいいとはしゃいで言った。
「一応お夕食の支度もしてあるから、向こうであれもこれもと召し上がらないでね」
あ、くるなと思ったら、案の定母がころころと笑い声を立てる。
「聞いてくださる? 進藤君」
「はい?」
「アキラさん、凄い欲張りなのよ」
「お母さん!」
「門下のお兄さん方に連れられて、お不動さんに行ったのは2年生のときだったかしら?」
「しりません」
「アキラさんたら、林檎飴にアンズ飴にわた飴にべっ甲飴、あとなんだったかしら。そうそう、薄荷パイプ! その上金平糖もあったわね。目が欲しがるのね。飴ばかり買っていただいて。そのあとだったわね、歯医者さんに通ったのは」
一息にそれだけ言うと、おかしそうに目を細めて笑う。
|