四十八手夜話 2
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真っ昼間からなんつー発言をするんだ、こいつは。
おもわず、辺りを見回した。誰もいないのを確かめる。しかし、アキラはあまり
気にしていないらしい。まるで、「この黒のハサミには白のツケでしょう」と
言うような口調で話を続ける。
「しかし、さすがに四十八手全てを試すのは、時間的、体力的に無理だろう。だから、
僕の年にちなんで十五手試してみるので手をうたないか?」
手を打たないかと言われても、すでにアキラの言葉は断定口調だ。
こういう時のアキラの腹は既に決まっていて、その決意を揺るがすのは容易では
ないことをヒカルはよく知っていた。
別のところで食事をすると移動が面倒くさいので、夕食はハイアットのレストランで
食べた。これも誕生日プレゼントの一部なのでヒカルがおごった。
それから、おもむろに戦場へ…じゃなかったホテルの部屋へ。
そこでアキラが鞄から取りだしたのは、束ねられた紙だった。
アキラが家のパソコンからプリントアウトしてきたものらしい。そこには古めかしい
名前を付けられたセックスの体位がずらずらと列挙されていた。
「ネットで調べたんだ。僕も実際の四十八手がどういうものかよくわから
なかったからね」
「なぁ、これ四十八手って言ってるけど六十種類ぐらいないか?」
ヒカルが恐る恐る訊いてみる。
「あぁ、時代によって、随分その中身も変わっていて、切り捨てられたものや新たに
加わったものを全部並べると実際には百種近くになるらしい。でもさすがにそれを
全部調べきったサイトは見つからなくて。そうだね。そこにあるのはせいぜい
それぐらいだ」
アキラの説明を訊きながら、ヒカルはペラペラとその「テキスト」をめくる訳だが、
丁寧にどれもが「図」入りで、それを途中まで眺めただけでも「お腹一杯」というの
が感想だ。しかも、このうち幾つか――アキラの歳に合わせて十五種類か――を実際
に実演しなければならないと思ったら、裸足で逃げ出したいというのが本心だ。
「とりあえず、どれを実行するか選ぶ権利は君にあげるよ。たぶん負担がかかるのは
君の方だから」
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