Cry for the moon 2


(2)
進藤は中学二年生でプロ試験に受かって、三年生のときにはプロ棋士として歩み始めた。
出だしはふるわなかったが、その後は順調に勝ち進んで去年の五月にあった日中韓対抗で開催
された北斗杯でも優秀な成績を修めていた。
そしてその年の夏、プロ二年目の二段でありながら、本因坊戦リーグ入りを果たした。
ここまではあの塔矢アキラと一緒の道だった。しかし進藤はさらにその上をいった。
リーグ戦を生き残り、挑戦者になったのだ。あまつさえタイトルまで得てしまった。
かくして16歳の進藤本因坊が誕生したのだ。それが今月の初めのことだ。
ものすごい快挙だと囲碁界が揺れた。
まったく……俺は高校二年生で、勉強やバイトであくせくして将来のことなんかちっとも
見えていないのに、進藤は確実に前に歩いている。なんという差だろう。
街角の居酒屋ののれんをくぐる。まだ混む時間ではないので店内は静かだった。
「こんばんは」
「お、三谷くん。今日は早いね。さっそくだが上の座敷をととのえてくれ」
「団体ですか?」
「そうだ。6人だ」
店の前掛けを手早くつけて、二階にあがる。テーブルを拭いて座布団を敷く。
ふと窓から月が見えた。月は進藤を思い起こさせる。
あいつはぜんぜん月ってガラじゃないのに。
進藤のことを考えると、何とも言えない感情が胸を支配する。
好きなのかそれとも嫌いなのか、自分でもわからない。
いや好意は抱いていた。だから俺は思わず進藤に……。
まぶたを閉じると、今でも鮮明にあの時のことが蘇ってくる。
理科室で寝ていた進藤。薄く開いた唇。そこから漏れる穏やかな息。
暑さで気が変になっていたのかもしれない。
とにかく気付いたら俺は自分の唇を押し付けていた。
男がファースト・キスの相手だなんて哀れかもしれない。あの時の自分はどうかしていた。
一通り準備を終えると、俺は階下におりた。することはたくさんある。
何も考えずに仕事に没頭する時間がおとずれるのだ。
だが気を引き締めようとしたそのとき、俺は信じられないものを見た。
「三谷?」
何で、何でここに進藤がいるんだ。



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