月下の兎 2


(2)
今自分がどこにいるのかさえ分らなかった。
走り続けて壊れそうに激しく鼓動を打ち続ける胸を抱え、荒い自分の呼吸を
出来るだけ押さえてヒカルは感覚を研ぎすまし辺りを伺う。
今来た道を辿って、アキラを見つけなければ。
アキラもきっと待っている。どこかに身を潜め、奴らが通り過ぎるのを待って、
「もう大丈夫だよ」とオレが声をかけて来るのを待っているはずだ。

港の近くで道に迷った。すぐ引き返せば良かったのに、つい人気のない方にアキラの手を
引っ張って行ってしまった。
月を見るつもりがいつのまにか目的が変わってしまっていた。
アキラの唇の感触が欲しくなった。強く抱きしめて細く華奢でそれでいてしっかりとした
骨格を感じる不思議な感覚を思いっきり味わいたかった。

そんな自分達を見ているのは月だけのはずだった。



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