heat capacity 2


(2)
流石に酸素が恋しくなって唇を離すと、絡み合っていた唾液が名残りを惜しむかの様に糸を引いた。切れて顎へと伝ったそれを乱暴に袖で拭う。
進藤の方は拭う気力もないのか、僕の胸に両手を置いたまま浅く速く息を紡いでいる。
だが、それでもその瞳はまだ足りないというように深く滾るような熱を持って僕を見つめていた。
「………ぃ…て」
「え?」
僕が聞こえない、と言外に言って身体を寄せる。
僕の両腕を掴んだ進藤は熱の籠った息を多分に含ませて言った。
「早く、抱いて。入れて」
いつも、求める時は性急な彼だが、こんなに直接的に素直にねだってきたのはこれが初めての事だった。
「進藤」
「早く。俺、おかしくなりそう」

取るものも取り合えずといった感じで。
僕達は一番傍にあった個室──洗面所に転がり込んだ。
抵抗がなかった訳ではなかったが、この際場所なんてどうでも良かった。漲る熱を、ひとまず処理しなければならない。こういった誘い方をしてくる時、進藤は通常には考えられない程箍が外れている事を経験から知っていた。
完全な個室に入ってしまえば、最悪誰かが来た時にも気配を殺せばいい。
進藤はいつにない積極性で下に履いていたものを脱ぎ捨てた。
そして、息継ぎをするのももどかしく唇を重ね合わせる。
濡れた音が、静かな空間に響く。行為そのものに酔い浸っている進藤の微かな喘ぎも時々僕の鼓膜を震わせた。
それは今まで感じた事の有る快楽とは違っていた。
快楽とは形容し難い、苛烈な感覚だった。
いつも自分の身を焦がしているのが灼熱の焔だったとしたら、今、自分を溶かしているのはマグマだ。その流動体は身体の深部で静かに揺らめいている。ともすれば爆発を引き起こしそうな熱を、徐々に、体内の隅々にまで音もなく広げていく。
相対する進藤も、まるで活火山のようだった。
彼は、休火山なのだ。時々思い出したように、燻っていた火を烈しく燃え上がらせる。
だが、『それ』はいつも自分と関わる何かがあった時だ。今日の様に、顔を合わせて即求められた事など無かった。それが、僕の頭の中にちりちりと嫌な感覚として残っていた。



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