heat capacity2 2


(2)
俺が居間まで出ると、塔矢が冷たい麦茶を入れてくれて、入れ違いに浴室に向かった。
一気にお茶を飲み干すと、俺は先に塔矢の部屋へ向かう。
襖を開ける。相変わらず簡素と言うか、殺風景と言うか。よくも悪くも物がない部屋だなと思う。色々なものが雑然と並ぶ俺の部屋とは大違いだ。
ふと、碁盤に目が行った。
一瞬とも永遠とも感じられる時間。俺はただただその盤面に目が釘付けになった。
忘れない、忘れる訳がない。
佐為に、一手一手、教えてもらった石の並び。
見た瞬間に打った手順が思い出せるぐらい、自分の頭に焼き付いている、それ。
叫び出したくなった。
なんで。なんで今更怖がらなくちゃいけないんだ。
もう、佐為はいないのに。
残ってしまったのは佐為をちょこっとだけ残す事のできた俺だけで、塔矢はそれでいいと言ってくれたのに。
心臓が早鐘を打つ。手の震えが止らない。頭がぐらぐらする。
心の奥深い場所に霧散していたものが、集まる。
忘れる事は出来ない。けれど自分なりのけじめは付けたつもりだった。
でも、こんなに辛い。
辛い。
塔矢、どうして。
どうして今更こんな物見せるんだ、俺に。
俺が好きなのは『塔矢』なのに。
佐為はもう、関係無いんだって……そう、思い始めてたのに。

いつの間に塔矢が風呂から上がっていたのか気付かなかった。
「進藤?」
肩に置かれた手に酷く驚いてしまって。振向いて塔矢の顔を認めた、次の瞬間。俺は不覚にも泣きそうになった。
「……っ!? 進藤!」
俺を抑えようとする声。無理だ、止められない。絶対に譲らない。今塔矢が欲しいんだ。
俺は塔矢の上にのしかかると、もがくみたいにしてあいつにキスをした。
息も付けないようなそれが、俺には逆に新鮮な酸素の供給だった。
こんな方法でしか息が継げない。
水揚げされた魚みたいだった。



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