平安幻想秘聞録・第二章 2
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そういや、何でこの前の夜は佐為に感じちゃったんだろうな。賀茂に
ならまだ分かるんだけどさ・・・そこまで考えて、ヒカルは頭を振った。
違う、違う。どんなに似てても賀茂と塔矢は違うんだ。
「どうかしたの?具合が悪いなら、少し眠った方がいいよ」
「そんなことねぇよ。でも、そうだな。ちょっと休ませて貰おうかな」
「分かった。佐為殿には人払いを頼んでおこう」
「うん、ありがとう」
ヒカルが大人しく床に就くのを見届けて、明は出て行った。衣擦れの
音が遠ざかるを聞きながら、ふぅとため息ともつかないものを吐き出す。
「塔矢・・・」
目を閉じればその面影が浮かぶ。この時代で再び佐為に会えたのは嬉
しかったが、このまま戻れなかったら・・・という不安もある。眠って
目が覚めたらただの夢かも知れない。ひょんなことで元の時代に戻れる
可能性だってある。ヒカルはなるべく悪い方に考えないようにしようと
自分に言い聞かせた。薄皮の上に纏ったような不安を全て拭い去ること
はできないとしても。
翌日。佐為が何やら難しい顔をしてヒカルの元にやって来た。眉を顰
めた佐為の表情が、悪いことの前触れのように見えて、思わず身構えて
しまう。そんなヒカルの様子に、佐為は慌てて口元に笑みを浮かべた。
「何かあったの?」
「いえ、あったというわけでは・・・」
「じゃあこれからあるんだ」
「そういうことになりますね」
たかが数日ですっかり馴れた感のある狩衣姿で、ヒカルは佐為に正面
から向き直った。
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