平安幻想秘聞録・第四章 2


(2)
 あの頃はまだ光も内裏に出入りをしていて、朝な夕なに顔を合わせる
こともあったのだ。ふとその頃を思い出して、思考の海に落ちかけるの
を奈瀬の声が引き留める。
「さっき、その日高の君たちに呼び止められたの」
「日高の君に?」
 珍しいこともあるものだ。佐為と菅原顕忠、引いては藤原行洋と座間
長房の威信をかけての対局は、絵巻物に書かれるような互いの友情を深
めるなどという効果は持ち合わせていなかった。
 今でこそ顕忠は佐為との御前試合に敗れ、指南役の座を辞してはいる
が、座間の庇護の元、内裏内で小さくはない影響力を残している。
 何にしても、日高たちと奈瀬が仲が良いわけでないのは確かだ。例え
互いに干渉し合わないことで、表面上はうまくやっていたとしてもだ。
「何か用事があったの?」
「えぇ。近衛のことで訊きたいことがあると言われたの」
「光のこと?」
 どうして?という疑問と、光の行方が知れたのではないかという期待
がない交ぜになってあかりの心を揺さぶる。
「何を訊かれたの?」
「近衛は、どんなものが好きかって」
「えっ?光が好きなもの?」
 光が好きなものと言えば、食べ物全般だが、どうしてそんなことを知
りたがるのだろう。
「私も訊いたの、なぜ知りたいのかって。そしたら・・・」
 奈瀬があかりの手をきゅっと握る。あかりはただ黙って続きを待った。
「東宮様が、近衛がどんなものを贈れば喜ぶか、お知りになりたいって」



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