望月 2
(2)
そんな話をする間にすぐ目当ての店に着いた。小ぶりなケーキを買って、アキラの家に向かう。
「これでようやく2次予選だ。早く桑原先生から本因坊のタイトルとりてェなぁ。」
「それにはまず2次予選と3次予選を突破して リーグ戦でボクに勝たなきゃならないぞ。」
気負いこんで話すヒカルに、アキラがやさしくいさめた。
「ヘヘッ。若獅子戦で優勝をオレにさらわれたのは誰だったっけ。」
「あれは、キミが左辺で内からノゾいたりしたから…。あんな悪手、普通なら左下辺全部持って
いかれるところだ。」
「ヘッヘッ。でも、お前、受け損なったじゃないか。なに言ったってダメだね。次も勝つさ。
勝って桑原のじーちゃんに挑戦だぁ。」
ますます調子付くヒカルにアキラは苦笑していた。
「去年、本因坊戦の第7局、山形であったんだけどさ、オレ、時計係やったんだ。慣れてなくて
大変だったんだけど。そんなことより、タイトル戦すぐそばで見てて、すげーワクワクした。
タイトル賭けた空気がピーンと張り詰めてた。それで2日あるからジックリ考えて、厳しい手
打ってくるんだよ。オレも早くこんな風に打ちたいって思った。
桑原先生、対局中ブツブツ独り言言ったり、扇子でバタバタやったり、なんかおかしーの。
緒方先生、調子狂わされてさ。
でも、逆転の勝負を決めた桑原先生の8三にハネた手はスゴいなと思ったよ。コワくてなかなか
打てない手だった。」
ヒカルは空を見上げながら、タイトル戦挑戦の夢を語った。
棋院を出る頃にはまだ明るさが残っていたのに、すでに辺りは暗くなり始め、空には丸い月が
昇りかけていた。
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