七彩 2
(2)
塔谷行洋の碁会所はいつも盛況だ。
だが今は遅い時間帯のせいか人気が少ない。まばらに席を埋める他の客達は
マイペースに自分の碁を愉しみ、若先生方の周囲に取り巻きはいない。
アキラは碁石を摘む手を休め、盤を挟んで向こうに座るヒカルの顔を見詰めた。
「・・・・・・・・・なんだって?」
そこでヒカルはやっと我にかえった。魅入られていたのだろうか、ぼんやりと
していたのが急に現実に引き戻され、しかも先の無意識の発言内容に慌てて
パニックに陥ってしまう。
「・・・いやっ!何でもない!!気のせい、何も言ってない、今の無しっ!!」
アキラは終始無表情だった。何の感情も見えない顔でヒカルを見据えている。
「・・・出ようか」
アキラは海王中学からエスカレーター式で海王高校に進み、ヒカルは高校進学
していない。よってヒカルはアキラに比べて時間に余裕があり、もっぱら
ヒカルがアキラのスケジュールに合わせて打つ約束をしている。二年に進級
した春頃からアキラの背丈は益々伸びて、冬を迎えた今ではヒカルと五センチ
以上の身長差がついている。
緋色の夕日が道に二人の細長い影をゆらゆらと描いている。
ガードレールがある歩道を、アキラとヒカルは黙々と歩く。長い影をひっそり
連れて。
「・・・ボクが好きなの?」
「・・・・・・・・・うん」
「恋愛感情か?」
「・・・・・・・・・うん」
ヒカルは既に隠す事を諦めていた。
最初はごまかしていたのだが、碁会所を出てからアキラにしつこく言及され
続け、とうとう観念させられたのだ。
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