ピングー 2
(2)
ともかく、そんなわけで、熱帯魚屋がここにあることさえ始めて知った進藤ヒカルは、今、
コリドラスの水槽の前にいる。
時々オタクっぽい風体の男や、気難しい顔をした男がヒカルの肩越しに水槽を覗き込み、
ヒカルの事を邪魔だというう風に顔をしかめるが、決して動くな、人に譲るなと緒方に
厳命されているヒカルは、必死で「どうぞ」といって引きたくなるのを我慢した。
目の前で泳ぐのは、なんとも奇妙な三角っぽい形の魚だった。
それが水槽の水の中を優雅に泳ぐのではなく、どう見ても不格好に、底の砂のあたりを
きぜわしく行ったり来たりしている。これがきっとコリドラスという魚に違いない。
そうして45分ほども経ったろうか。
後ろからポンとなれなれしく肩を叩く手があった。
振り返って見上げると、緒方が立っていた。
「お前がいる間に、誰かこの水槽から魚を買っていった奴を見たか?」
ヒカルは黙って首を横にふった。
「よし、よくやった。今夜は大トロでもウニでも、好きな物を食え」
そう言った緒方は、店長らしき人物を呼びつけると。「コリドラス」の水槽の前で、魚を
指差して話し込みはじめた。
やがて、店長がその水槽から幾匹かの「コリドラス」をすくい上げ会計をする。
緒方は外から見えないように包まれたそれを満足そうに抱えると、ヒカルの肩に手を回して
「出ようか」
と笑った。
寿司を食いながら緒方の話を聞くと、緒方の狙いは「混じり抜き」と呼ばれるものだった
らしい。
「コリドラスには最近になって、凝りはじめてな。お前に見張らせたのは今日が入荷日
だったからさ」
酒も入って、緒方の口はなめらかだ。
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