落日 2


(2)
嫌だ。これは夢だ。夢なんだ。
さっき俺は目覚めたはずなのに、どうしてこんな恐ろしい夢の中にまた迷い込んでしまったんだ。
目を覚ませ。
覚ませばきっと、柔らかな声が俺の名を呼んでくれる。優しい手が俺を抱きしめてくれる。だから。
だから、目を覚ましてくれ。お願いだ。
目を覚ませ。
そうすればこんな恐ろしい夢から抜け出せるはずなんだ。

強い力で揺さぶられて、彼は目覚めた。
全身に汗をびっしょりかいていた。軽く身体を起こすと、冷たい空気が汗に濡れた身体を冷やし、
彼はぶるりと悪寒に震えた。
「大丈夫か?」
誰かの声がする。
これは誰だったろう。
目を開けてその人の顔を確かめようとする間もなく、強い力で抱きしめられた。
「近衛……」
彼が呼ぶのは自分の事であろうか。よくわからずに、けれど温かい身体に縋るように、彼は自分
を抱きしめる身体に腕を回し、その人の抱擁に応えた。
「…近衛……よかった…!」
温かい胸がひどく安心する気がして、彼はその胸に頭を預けて、また、眠りに落ちていった。



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