りぼん 2


(2)
席につくと、塔矢は石を並べはじめた。けどあまりそれに集中できない。
塔矢の表情ばかりが気になる。今なにを考えてるんだろう。ちっとも読めない。
「あのさあ、塔矢……」
「何だい?」
声の調子から、少なくとも怒ってはいないことはわかる。
けどやっぱり何か引っ掛かるものがある気がした。直感てやつ?
オレはこわごわ口をひらく。
「ちゃんと前から言っててくれたら、何か用意したのに。オレなにもないぜ?」
「うん、別にかまわないよ」
あっさりと塔矢は言う。なんかその言い方、オレにちっとも期待してないってカンジだ。
「今度やるから、何がほしいか言えよ」
「気をつかわなくていいよ。きみの言うとおり、誕生日なんてたいしたことじゃない」
「……さっきオレが言ったこと、根に持ってるのか?」
別に、って言ってるけど、やっぱりコイツちょっと拗ねてる気がする。
「なあ、本当に何かやるからさ。でないとオレ、ずるいじゃん」
塔矢は教えてなかったのに、オレの誕生日を知っていた。しかもプレゼントまでくれた。
限定物のシューズ。オレが雑誌を見ていて、ちょっと欲しいなって言ったこと、覚えていて
くれたんだ。あのときはちょっと感動した。
オレだって同じように塔矢をよろこばせたい。
「なあ、なにが欲しい? とりあえず言ってみろよ」
「……わからない?」
「わかるかよ。だってオレ、おまえが何かを欲しがるの見たことないんだぜ? あ、詰碁集
とかがいいか? でもおまえ、たくさん持ってるしなあ」
なにより、そんなのがプレゼントなんて芸がなさすぎる。そういや碁会所のおじさんたちは
何をあげたのかな。
「ボクの欲しいものがわからない?」
顔をあげた塔矢の目が光った気がして、オレは息を飲んだ。
「進藤、本当にわからない?」
その艶めいた響きに、思わずどきっとしてしまう。
「ボクが欲しいものは、いつでもどんなときでも、一つしかないんだけど?」



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