しじま 2
(2)
ふとボクは、進藤に確認したい衝動に駆られた。
「あのさ、進藤」
「なんだよ」
きみはボクを選んでくれたんだよね? たとえきみにとってそれが恋ではなくても、ボクは
きみを恋人だと思ってもいいんだよね?
そう言いたかったけど、しつこい気がしたし、何よりも進藤のなにも考えていなさそうな顔
を見たら失せてしまった。
だいたい進藤は、こう言っては悪いけど、あまり物ごとを深く考えることはしないんだ。
「……手合いの日に、体調が戻って良かったね」
一緒にエレベーターに乗り込みながらボクは言った。
「ああ、お母さんにはまだ休んだらとか言われたけど、そう言うわけにもいかないだろう?
それにおまえに会いたかったしさ」
ともすると聞き逃してしまいそうなほど、それはあっさりとした口調だった。
ボクがもたもたとその台詞を反芻していると、また進藤はボクを驚かす発言をした。
「なあ塔矢、今日おまえんちに行ってもいい?」
「なんで?」
思わずそう言ってしまっていた。
「なんでって……」
そんなふうにボクが聞き返すとは思ってなかったんだろう、進藤は口ごもった。
ボクは自分が気の利かない、野暮な男のような気分になった。
「もちろん大歓迎だよ。その、泊まる、よね?」
「おまえがイヤじゃないなら」
進藤、ボクが嫌だと思うはずがないだろう!
胸がつまりそうなほどの幸せを感じる。
ボクは進藤の肩に触れようとした。だけど六階に着いてしまい、進藤はさっさと出て行って
しまった。行き場のなくなった手をしかたなくボクはおろした。
「塔矢、ぼうっとしてんなよ」
進藤がボクを呼ぶ。動悸とめまいがした。
今日の手合いは負ける気がしなかった。
|