番外編1 Yの悲劇 2


(2)
嘉威がヒカルのファンというわけでは、残念ながら、なかった。
嘉威はプロが無名のうちにサインを一通り集めておこうという、単なるサイン・
コレクターだったのだ。狙いは父が趣味にしている囲碁のプロだった。
テレビ番組の影響で将来のお宝をゲットしようと中学生の頃からコレクター道
に精を出してきたお蔭で、コレクションは気鋭の若手・塔矢アキラはもちろん
のこと、芦原、冴木、辻岡、真柴といった若手のサインを網羅している。若手
の中から逸早くタイトルを獲得した緒方十段のサインがないのは返す返すも残
念だが、すでに頭角を現している倉田には、まだ四段の頃だったせいか、気軽
にサインに応じてもらっている。ヒカルの同期、越智と和谷のサインもとうに
入手済みだ。
塔矢行洋、桑原本因坊、一柳棋聖といった大御所は恐れ多く頼むことができな
かったが、先物買いがいいんだと強がっていた。もっぱら若手ばかりではある
が、燦然と輝く嘉威のコレクションに欠けているのは、しばらく手合いに出て
こなかったヒカルのものだけだったのだ。

(オイ、これがサインかよ。)
チラッと見ただけでコレクションの中でも最低の字であることを確信した嘉威
は、かすかに引きつった笑顔でヒカルに握手を求めた。
「期待してます。いつかタイトルとって下さいね。」
「うん、がんばるよ。」
お宝化の期待は早々に消えつつあったものの、とりあえず社交辞令をいい、嘉
威はヒカルの手を握った。
その時だった。
「おい小僧、またメシでもくいにいかんか。」
手の中のヒカルがビクッと震えた。後ろには、桑原本因坊が立っていた。
(さすが本因坊ともなると、同じプロでも緊張するんだ。)
目を大きく見開き、固まっているヒカルを見て、実力の世界の厳しさを垣間見
た気がした。



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