初めての体験+Aside 2


(2)
 電車に乗り込み、ドアの付近に立った。
 社は、ヒカルに初歩の質問をした。
「塔矢の家は、こっから遠いんか?」
「近いよ。」
ヒカルは即答した。が、
「――――って、オレも初めて行くんだけどさ。」
と、付け足した。
 それは、ないやろっ!と、ツッコミそうになったが、やめた…。ヒカルが、初めてだと
言うのなら、初めてなのだろう……。そういうことにしておこう。
 会話が途切れた。社は何となく窓の外を眺めた。外は真っ暗で、景色はまるで見えない。
ガラスに自分とヒカルの姿が映っている。ヒカルの身長は、前と同じ社より頭半分小さい。
車内は少し混み気味で、二人の身体が密着…とまではいかないが、かなり近くにヒカルの
顔があった。風呂に入ってから出てきたのだろうかシャンプーの香りが鼻腔をくすぐった。
ヒカルの柔らかそうな髪に触れたくなった。いや、“柔らかそう”ではなく“柔らかい”のだ。
自分はそれに触れたことがある。髪以外にもいろんな場所に触れた…。ヤバイ…思い出したら…。
 ヒカルが不思議そうに社を見つめる。自分の状態をごまかすために別の話題をふった。
「な…なんか食いもんの匂いがする…」
ちょっと苦しいか。あまりにも不自然な会話の流れだ…。
「ああ、コレ。お母さんに持たされたんだ。みんなで食べなさいってお弁当。」
ヒカルが屈託なく答える。唐突な質問にも何の疑問も持たなかったらしい。
 それより、社は感動した。ヒカルは結構口が悪い。礼儀も作法もまるでなっていない。
可愛い外見とは裏腹の、そのギャップが堪らなく可愛いのだが、言葉の端々に育ちの良さが伺える。
育ちが良いとはこの場合、いわゆる名家とか良家とかではなく、温かい普通の家庭で
大事に育てられてると言う意味である。
『ハァ〜やっぱり進藤や…“お”母さんに“お”弁当やて…』
自分の周りの連中と比べてみる。男も女も「オカン」「ベントー」だ。
 人目も憚らず、抱きしめて頭をグシャグシャに撫で回したい衝動に駆られた。



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