無題・番外 2 - 3


(2)
「それにしても、緒方さんを失恋させるようなひとって、どんな人なんですかぁ?
興味あるなあ。」
グラスを片手にそう問い掛けた芦原を緒方はギロリと睨んだ。
「人の事なんかどうでもいいだろ。おまえはどうしたんだ。
この間女連れで歩いてたって聞いたぞ。」
「ああ…あれね。」
「なんだ、またふられたのか。」
「また…って、緒方さん…や、どうせその通りですけどね。」
芦原はグラスを揺すりながら空を見て言った。
「プロ棋士って、ナニそれ?囲碁なんてわかんなぁい、他に話すことないのぉ、ってね。
どーせ、囲碁バカで何も知らないし、学生の世界の事なんてわかんないですしね。」
「なんだ、そんなつまらない女、こっちから振ってやれ。」
「まぁね…どっちからでも大した違いはないですけどね…、
結局、友達の紹介してくれた娘と付き合ってみても、みんなそんな感じなんですよね…。
世界が違うって言われちゃね。どっちにしてもあんまりピンとくる娘でも無かったけど。」
芦原は軽く溜息をついて、グラスの残りを飲み干し、緒方の方を見た。
「そんな事より、緒方さんの失恋した相手って、どんな人なんですか、教えて下さいよ。」
「どんな、って言われてもなぁ…」
アキラだよ、とは言えまい。
「まず、緒方さんが本気になるってのが信じられないんだよなぁ。
やっぱ、キレイなひとなんですか?」
「キレイ?ああ、キレイだとも。極上だよ。街を歩けば誰もが振り返るような上玉さ。」
肩を竦めてそう言って、緒方はグラスの中身をすすった。


(3)
「だが、オレが惚れたのはアイツのお綺麗な外見と言うよりは…」
意志の強い瞳の光や、真剣さとひたむきさ。その裏の意外な脆さ。一見、素直で育ちのよい少年に
見えるが、その実、わがままで自分の意志や欲望にも素直で忠実で貪欲な所。
グラスの中の液体を見詰めながら、そんな言葉を緒方は心の中で浮かべた。
「ほんとに惚れてたんですねえ…」
感傷に浸っている様子の緒方の様子を見て、感慨深く、芦原が言った。
「それにしても、緒方さんをふっちゃうなんて、たいしたひとですよねぇ」
「そうさ、たいしたヤツさ、アイツは。
このオレを良いように手玉にとって涼しい顔をしてやがるんだからな。
しかも、オレときたら、物分かり良く、そうかわかった、ガンバレよ、ときたもんだ。」
「ふうん、さすが大人ですねぇ」
「大人なもんか。やせ我慢さ。
バカなプライドなんかのために、引き止める事もできない小心者だよ、オレは。」
引き止めるどころか、自分から手放した。
バカな事をしたのかもしれない、今頃、そう思った。
結局の所、アキラにとってオレは何だったんだろう。
緒方は最後に聞いたアキラの声を思い出そうとした。彼は何と言っていたろう。



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