昼食編 2 - 3
(2)
オレ、なんて事しちゃったんだろう。
あの唇に。
あの、キレイな唇に。
柔らかかった。
柔らかくて、気持ちよくて、ずっとこうしていたい、そう思った。
あれって、オレ、ファーストキス、だよな。
なんでよりによってファーストキスの相手が塔矢なんだ?
しかも、オレの方からしたんだよな。
なんかおかしい。どうかしてる、オレ。
さっきから、なんかコイツから目が離せないし。
なんだかドキドキするし。
コイツがやたらキレイに見えてしょうがないし。
(3)
視線に気付いたのか、アキラが、なんだ?という様な目でヒカルを見返した。
急に目があってしまってギョッとしたヒカルは、誤魔化すように、ヘヘヘ、と照れ笑いをした。
意味がわからずに怪訝そうな顔をしたアキラがなんだか可愛く見えて、にやっと笑いかけてやったら、
アキラは更に厳しい顔になった。それが可笑しくて、ヒカルはぷっと吹き出してしまった。
「進藤!何がおかしいんだ!」
ダン!とテーブルに手をついて立ち上がったアキラに、ヒカルは声をたてて笑い出した。
「進藤!笑ってないで、何か言え!」
「ハ、ハハ、と、塔矢、オマエ、面白すぎ…」
「何を!ヘンなのはキミだろう!何もないのに急に笑い出すな!」
大声で怒鳴りつけるアキラと、おなかを抱えて笑っているヒカルが棋院ロビーに引き続き、ここでも
また注目の的になってしまっている事に二人は気付いていない。
「…なんなんだ、キミは。さっきから人のことじろじろと見た挙句、そのバカ笑いは。」
怒りを抑えようとしながら、アキラがヒカルに詰め寄って凄む。
「ボクの顔に何かついてるとでも言うのか。」
「ち、ちが…」
ヒカルは必死に笑いをこらえようとしながら言う。
「違うんだ。なんか、ただ…」
ふっと笑いやんだヒカルは、深呼吸してから、アキラを見つめて言った。
「ただ、そう、オマエってキレーなんだなーって、見惚れてただけ。」
騒がしい二人組みに注目していた周囲の客や店員にも、しっかりとこの台詞は聞こえていた。
アキラの顔がみるみる朱に染まり、こぶしを握り締めた手はふるふると震えている。
「………ふざけるなっ!!」
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