墨絵物語 2 - 3


(2)
「キミ!ちょっとそこの!」
男は棋院会館を出たばかりの少年に声をかけた。
それは塔矢アキラではない。
学生服に身を包んだすらりとした体躯の少年─対局場で見かけたとき
一目で気に入って、後を追いかけたのだった。
「何ですか?」
振り向いた少年の愛らしい無垢な瞳がさらに男の絵心に火を点けた。
「キミはさっき、塔矢君と一柳先生の対局を見学に来ていたね。
 院生かい?それともプロ?」
「プロです。進藤ヒカル、初段です」
「へぇ、塔矢君とは友達?」
「いえ、──ライバルです」
塔矢アキラ相手にライバルだなどと自信満々に言える初段はそうはいない。
しかもなかなかの上玉ではないか。
(予定変更、今日はこの少年にしよう)
男はヒカルに自己紹介をし、それを聞いてすっかり恐縮したヒカルを
類稀な話術でいとも簡単に車の中に誘い入れた。
(いい『作品』ができそうだ…)
二人を乗せた車は颯爽と闇の中へと消えていった。


(3)
男はアトリエに着くなりヒカルのリュックを取り上げ、
その腕を和タオルで縛り上げた。
「ッ…検討するんじゃなかったのかよ、オレを騙したな!」
「悪く思わないでくれたまえ、これも『作品』の為なんだよ」
さらに男はヒカルに猿轡をかませ、縛った両腕の間に長紐を通し、
柱へと巻きつけた。
釣上げられた魚のようにジタバタと抵抗する『モデル』を、
男の目は上から下まで冷静に観察した。
「これだけの逸材をどうしていままでチェックしていなかったんだろう…。
 私の情報網もまだまだだな」
そう言うとヒカルのベルトに手をかけ、これまた冷静に制服のズボンを引き下ろした。
火がついたように激しく暴れだすヒカル。
男は何も言わずいきなり下着の中へ手を差し込むと、
まだおとなしくしているヒカルのペニスをぎゅうっと握り締めた。
「───!!!」
あまりの激痛にヒカルが身を捩らせる。
その眦に、滴となった涙が光っていた。
いやいやと幼子のように首を振って懸命に何かを訴えるヒカルの様子を
男は満足げに眺め、
「キミはおとなしくそこで足を開いていればいいんだ」
痛いことはしない─甘い声でそう付け加えた。



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