裏階段 三谷編 2 - 4


(2)
シャツの一番下のボタンを外して視線を彼の顔へ向けた。彼の大きな瞳が視線を反らす方へ
動くのが分かった。彼はいつもそうだった。
こちらが見ていない時はこちらを見つめ、こちらが目を向けると目を反らす。
そういう習性を持つ動物のように。
そのまま無表情にどこか遠くを見ている彼の顔を眺めながらシャツを左右に開いた。
痩せて鎖骨や胸骨の陰影を伴った青白い胸の左右にアクセサリーのように紅く色付いた
小さな突起があらわれる。そのうちの一つの脇には小さく引き攣れた火傷の痕があった。
煙草を押し付けられた痕である事は容易に想像出来た。


(3)
こちらの視線がその火傷に留まったのを感じたのか、彼はそれまで体の両脇に無造作に置いていた両手で
開いていたシャツの前を閉じてしまった。怒ったように背を向けて体を丸める。
「…悪かった。」
仕方なくこちらも起き上がり、彼に背を向けるようにしてベッドの縁に腰掛け、サイドテーブルの上に
置いてあった煙草とライターに手を伸ばす。灰皿もそこにあった。
そんなに欲情していた訳ではない。彼に誘われた訳でもない。
それなのにここにこうして二人で居る事が不思議だった。おそらく彼もそうだろう。
その答えを探すためにここに来た。そうとしか言えなかった。
初めて出会った時から、互いに抱いた予感だったから。こういう時が来るのではないかという。
目の前を揺らいでいた紫煙がかき消え、ふいに彼の両腕が背後からこちらの首に回されて来た。
ほとんどベッドを軋ませず彼は近寄って来ていた。
こちらの関心が自分より煙草に向いたのが気に入らないようだった。


(4)
「別にそれを見たから吸いたくなったというわけじゃない。」
口にしてから、少し酷だったかなと思った。だが彼は特に気にした様子はなかった。
首に巻き付いて来た彼の腕はひんやりとしたいた。
背中に押し充てられた胴体からかろうじて体熱が伝わって来る。
「誤解しないで欲しいんだけどさあ、」
耳元に億劫そうなけだるい口調の声で囁かれる。
「相手は誰だってよかったんだ。」
「そう言ってもらえるとこっちも気が楽だ。」
腕を伸ばしてまだ幾らも長さを変えていない煙草を灰皿に押し付け、眼鏡を外してその横に置く。
彼の方に向き直り痩せた肩を両手で抱き唇を奪う。彼の手がこちらの首元に来てネクタイを外す。
「…フン」
鼻先で笑い、戦利品のように彼は奪ったネクタイを指先に絡めてかかげ、ベッドの脇の床に落とした。
お返しに彼の体を倒してやや乱暴に彼の衣服を剥ぎ取る。
煙草が押し付けられた痕は他に下腹部に数カ所あった。その中の2ケ所は、まだ幼さの形状を残す
局部の付け根近くと先端部分にあった。
それらに視線を留めないようにして彼の体の各箇所にキスを重ねた。



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