平安幻想秘聞録・第二章 2 - 4


(2)
 そういや、何でこの前の夜は佐為に感じちゃったんだろうな。賀茂に
ならまだ分かるんだけどさ・・・そこまで考えて、ヒカルは頭を振った。
 違う、違う。どんなに似てても賀茂と塔矢は違うんだ。
「どうかしたの?具合が悪いなら、少し眠った方がいいよ」
「そんなことねぇよ。でも、そうだな。ちょっと休ませて貰おうかな」
「分かった。佐為殿には人払いを頼んでおこう」
「うん、ありがとう」
 ヒカルが大人しく床に就くのを見届けて、明は出て行った。衣擦れの
音が遠ざかるを聞きながら、ふぅとため息ともつかないものを吐き出す。
「塔矢・・・」
 目を閉じればその面影が浮かぶ。この時代で再び佐為に会えたのは嬉
しかったが、このまま戻れなかったら・・・という不安もある。眠って
目が覚めたらただの夢かも知れない。ひょんなことで元の時代に戻れる
可能性だってある。ヒカルはなるべく悪い方に考えないようにしようと
自分に言い聞かせた。薄皮の上に纏ったような不安を全て拭い去ること
はできないとしても。

 翌日。佐為が何やら難しい顔をしてヒカルの元にやって来た。眉を顰
めた佐為の表情が、悪いことの前触れのように見えて、思わず身構えて
しまう。そんなヒカルの様子に、佐為は慌てて口元に笑みを浮かべた。
「何かあったの?」
「いえ、あったというわけでは・・・」
「じゃあこれからあるんだ」
「そういうことになりますね」
 たかが数日ですっかり馴れた感のある狩衣姿で、ヒカルは佐為に正面
から向き直った。


(3)
「今朝、藤原行洋さまから文が届きました」
「文?手紙のこと?」
「そうです」
「悪い知らせ、なんだろ?」
 まさか怪しい話をぶちまけている自分をしょっ引いて来い!なんて書
いてあったんじゃ・・・先を言い淀んだヒカルに、佐為は首を横に振る。
「しょっ引けなどと書いてありません。ただ、光と話をしてみたいと」
「オレと?」
「私と明殿の話から、ある程度、光のことを信用していただけたみたい
ですが」
 やっぱり疑ってるんだなと、ヒカルは思った。そりゃ、そうだよな。
オレだって自分のことじゃなかったら、こんな話は信じねぇもん。まし
てや塔矢先生だしなーと、変なところで納得しているヒカルだった。
「えーと、その、藤原行洋が・・・」
「せめて『さま』をつけてくれ、進藤」
「あっ、ごめん・・・って、賀茂、いつ来たんだよ?」
 いつの間にやって来たのか、佐為の横に明が座っていた。佐為との話
に夢中になっていたにせよ、部屋に入る気配も感じさせないとは、さす
が稀代の陰陽師だけある。ヒカルの陰陽師に対するイメージは、ドラマ
や映画の影響もあって、少し、いやかなり脚色されたものになっていた。
「いつって、先程、声をかけてから部屋に入ったじゃないか」
「ご、ごめん」
「まぁまぁ明殿も怒らないで。それで、光、何を言いかけたのですか?」
「あー、そうだ。藤原行洋・・・さまが、ここに来るの?」
「さすがにこの屋敷に来ていただくことは憚れますから」
 理由は言わなかったが、それでなくとも佐為は藤原行洋の息がかかっ
ていると内裏では評判なのだ。ただ静かに囲碁指南を全うしたいだけの
佐為にとっては、貴族同士の確執は煩わしいところもある。それでいて、
今回は行洋を頼ってしまっているジレンマもあるのだが。


(4)
「では、藤原さまのお屋敷に?」
「いえ、藤原さまだけではなく、緒方通匡さまもお会いしたいそうです
から、内裏に赴くことになりそうです」
「内裏って、帝のいるところだろ?」
「えぇ、宮中です」
 今で言えば、国会議事堂で大臣に会えと言われているようなものだ。
大胆不敵なところのあるヒカルでもさすがに背中がぴきーんと緊張する
のが分かった。おまけに、緒方通匡というのは、あの緒方だろう。いろ
いろと世話になっているわりには、saiの一件もあってどうも緒方が
苦手なヒカルだ。
「それって、いつ?」
「それが、今日にでもと」
「今日〜!?」
 先程、文が届いたと言っていたのに、やけに急な話ではないか。
「今日は、昼から内裏で帝が宴が開かれることになっているのです。人
の出入りも多いですから、それに紛れてこっそりとやって来いと」
 正面切って堂々と参内、というわけにはいかないらしい。
「人が多いとかえって見つかったりしない?」
「表はね。警備の者に話を通して、裏門から来いということでは?」
「その通りです。それに、内裏にいるところを誰かに見られても、宴に
招かれたと言えば、見咎められることはありませんから」
 ヒカルの顔を晒すわけにはいかないだけに、面倒なこともある。
「ごめんな、いろいろと」
「光、これくらいどうということはありませんよ。牛車を用意させます
から、それに乗って行けばいいだけのことです。大丈夫ですよ」
 にっこりと微笑む佐為に、ヒカルも弱いながらも笑みを返す。
「うん・・・」
「では、話がまとまったところで、昼餉にしましょうか?(笑)」



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