スノウ・ライト 1 - 3


(2)
いつの時代の、どこの国のことでありましょうか、一人のお妃がおりました。
長くてつややかな黒髪を持つ、美しい面立ちをした方です。
お妃は碁を打つのが大好きで、今日も打っておりました。
ふとしたはずみで碁石が手から転がり落ちてしまいました。
お妃は拾おうとして、窓の外に雪が降っているのに気付きました。
雪は窓辺のランプの灯かりを受けて、きらきらと輝いております。
「盤上の熱き戦いと同じように、千年の時を経ても変わることなくこの世にある、雪。
この雪のように輝きつづける子がほしい――」
お妃のつぶやきは神へと聞き届けられます。
それは愛らしい赤子が生まれたのです。その子はスノウ・ライトと名づけられました。
毎日碁を打ち、しかも姫まで恵まれ、お妃はとても幸せでした。
しかしお妃はまもなく水難にあい、この世を去ってしまいます。
実は他の后に追い詰められたとの噂もありましたが、記録には残っておりません。
幸いなことにお妃の忘れ形見は、すくすくと成長していきます。
その光り輝くばかりの魅力より、その子はヒカル姫と呼ばれるようになります。


(3)
さてこの物語には父である王様は出てきません。父親というものは影の薄い存在です。
特にヒカル姫の父はそうです。顔すら出てきません。
ここで出張ってくるのが新たなお后様。
お后の趣味は前妃と同じく碁でありましたが、年頃の少女らしく鏡を見るのが好きでした。
「鏡よ鏡、この物語のヒロインはだぁれ?」
『それはナセさまでございます』
「それはそうよ。女の子はもう一人あかりって子がいるけど、あの子はヘボだもの」
お后様はご満悦でした。しかしある時、鏡はこう答えます。
『それはヒカル姫でございます。ふっくらほっぺが可愛く、やんちゃで明るく、まるで
 その名のごとく光を振り撒いております。ハァハァ』
その言葉にお后様はいらだちますが、自分に言い聞かせます。
「焦っちゃダメ。そのうち、ヒカル姫も成長するわ。そしたら可愛くなくなるわ」
ところが鏡の精はこう答えるようになります。
『最近のヒカル姫は凛々しく、たいそう美しくおなりでございます。物陰からたくさんの
 者たちがその姿を見つめております。その中には隣国の王子もいるとか……ハァハァ!』
お后様、怒り心頭です。
「フン! 負けないから!」
そして良からぬことを考えます。
「狩人のイスミを呼びなさい」
呼び出したイスミに、ヒカル姫を殺すように命じました。


(4)
さてイスミはヒカル姫を外に連れ出し、そして剣でもって切り付けました。
「何すんだよ、イスミさん!」
破れた服の合間から、その健康そうな肌が見えます。イスミバックン!
今までに感じたことのないときめきを覚えます。
スノウ・ライトはヒカル姫と呼ばれていますが、実は男の子。
しかしこの際、そんなの関係がありません。
「ヒカル姫!」
感情をコントロールできないイスミはいきなりヒカル姫にのしかかっていきました。
「わあ!」
「ヒカル姫、お后にあなたを殺すよう命じられましたが、助けて差し上げます」
言いながら服の中へと手を忍ばせます。鼻息がすでに荒いです。しかし。
「え?」
なんとヒカル姫、泣いているではありませんか。
こうなると気弱なイスミ、おろおろと手を放します。
「ま、負けました。どこへなりともお逃げください」
するとヒカル姫、大慌てで逃げ出しました。イスミ、必死の形相で追いかけます。
「何で来るんだよ! 逃げていいって言ったじゃないか!」
「オレも同じ道を歩きたい」
しかしヒカル姫、脚力には自信があります。あっという間にイスミを引き離していきます。
何とか追いかけたイスミ、道が二つに分かれたところでしばし迷います。
えい、と左を選び、進んでいきました。ところが行き止まり。
「……右にイッタほうが良かったんだ……」
がっくりしますが後の祭り。
さてヒカル姫、そのまま走って1軒の小屋へと飛び込みました。

ただいまより、休憩がはいります。
ベルが鳴りましたらご着席ください。



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