トーヤアキラの一日 20
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目の前に会いたくて仕方なかったヒカルが居る。嬉しそうに目を輝かせて碁の話を
している。ヒカルが喋る度に、食べる度に、飲む度に動く口と喉仏。それを見ている
だけで、体中の毛細血管がはちきれそうなのに、ヒカルの口から意識せずに発せられる
言葉の数々に、アキラの心は完全に翻弄されていた。
───怒ってるわけがない。その逆だ。お願いだから、もうそれ以上ボクが舞い上がる
ような事を言わないでくれ。
「あ、うそ、やっぱり怒ってるじゃん!!お前のその目を見るの、久し振りだよな・・・
真剣な目って言うのか、怒ってるみたいって言うのか。その目に引きずられてオレは
プロになったようなもんだからな、ヘヘヘ」
アキラの中で感情の堤防が決壊して、伝えるつもりの無かった言葉が自然に飛び出す。
「進藤!キミが好きだ!」
「?へ?」
「キミが好きだ!」
「な、なんだよ!いきなり!!驚かすなよ!もー、心臓に悪いんだよっ、塔矢!!」
ヒカルの怒鳴り声で我に返ったアキラは、前のめりになっていた体をゆっくり椅子の
背もたれに動かす。そしてヒカルを見つめたまま、今度は落ち着いてゆっくりと言う。
「ごめん。でも本当の事なんだ・・・・。キミが好きだ、進藤」
「ちょ、ちょっと待て!塔矢。落ち着け!・・・・どうしたんだ?」
「ボクは落ち着いてるよ。・・・・キミの事が好きなんだ。」
「・・・・・、あのさ、それはさ、友達としてだろ?」
「そうじゃない。友達としてなんかじゃない。プロ仲間としてでもない。ライバルの
一人として好きなわけでもない。・・・・キミに恋愛感情を持っているということなんだ」
「・・・・・・・、塔矢・・・・」
ヒカルは驚きで、大きな目をさらに見開いてアキラを見る。アキラは黒い大きな瞳を
真っ直ぐにヒカルに向けて、視線で訴えかける。
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