無題 第2部 20
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どうしてなんだろう、とアキラは思った。
時々、そうやって自分に対して敵意をむき出しにしてくる人間がいる。
自分としては普通に接しているつもりなのに、理由も無く嫌われる。
子供の頃通った囲碁教室でも、海王中囲碁部でも、今現在、若手プロ棋士達の中でも。
同じ年頃の人間ばかりでなく、日々対戦する棋士達にもまた、そういう人達はいた。
理不尽だ、とアキラは思った。そして、進藤なら、そんな風に嫌われる事はなのだろうとも。
和谷のように自分を嫌っている人間でも、進藤とはとても仲が良い。
―その上、あんなあからさまにボクを嫌う人間とでも、キミは仲良くやっていけるんだ。
根拠の無い怒りが、突然アキラの心にどす黒く広がった。
―キミは、いつもそうだ。
いつも、そうだ。ボクには背を向けるくせに、他の人とは楽しそうに話している。
ボクには入っていけない輪の中で、キミはいつも楽しそうに笑っている。
ボクが独りでどんな思いをしてるかなんて、キミは気付きゃしないんだ。
誰だって、キミを好きになる。キミの無邪気さに、屈託のなさに、明るく元気で罪の無い笑顔に、
何をされたって、結局はキミを許してしまう。ボクだって…ボクだって結局はそうだ。
キミが持っているのは、ボクには無いものばかり。
キミは知らないだろう。ボクがどんなにキミを羨ましいと思っているか。
こんなのはただの八つ当たりだ、と心の片隅で思う。けれど、打ち消そうと思っても、涌いてくる
怒りを、アキラは止める事ができなかった。
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