少年サイダー、夏カシム 20
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もう一度、いやチャンスがあれば何度でも、飽きるくらいに甘い砂糖菓子のようなヒカルを抱きたいと思う。
しかし和谷はもう二度としないと決めた。それは罪悪感や後悔からというよりも、最後に見たあの笑顔が目に焼きついて離れないからだ。
あれは強がりだ。本当は大声で泣き叫びたかったに違いない。
けれどそうしたところで何も変わらないということがわかっているのだろう。もう諦めるしかないということがわかっているのだろう。そんな顔を幾度も見た和谷だからわかる。
和谷はなぜヒカルが大人びて見えたのかわかった気がした。それと同時にあの頃の元気でやんちゃな少年はもういないのだと、なんだか寂しくなった。
進藤をそんなふうに変えた人物は、進藤にとってそんなにも大切な人だったのだろうか。
会うことも忘れることもできないまま傷つきながら、進藤はずっとその人のことを想い続けるのだろうか。
だとしたら羨ましい。進藤に限らず、人からそんな風に想われるなんて。
和谷はヒカルがその人にまた会えることを願いつつ、空を見上げ目を閉じた。
いつのまにか赤紫色に染まり始めた空に、ヒグラシの夜を告げる声が鳴り響く。
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