金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 20 - 21
(20)
最初は茫然としていたヒカルの表情が見る見る険しくなっていく。ヒカルはキュッと唇を
噛みしめると、アキラに向かって怒鳴った。
「バカ!マヌケ!塔矢の役立たず!オマエのせいで、チカンにあったじゃねえか!」
「は…?」
猫のようにふーふーと逆毛を立て、アキラを威嚇する。
突然どうした言うのだろう?チカンにあってショックを受けたのだろうか?だが、これに
関しては自分にだって言い分がある。
「キミが勝手に離れたんじゃないか……」
「だって…!」
淡々としているアキラと対照的に、ヒカルは既に半泣き状態だ。
「だって…本当にチカンされるとは思わなかった…!」
ヒカルの両方の目から、涙がポロポロ零れ始めた。
これは反則だ…どう見ても自分の方が悪者ではないか…周りの視線が痛い。いや…それよりも
胸がズキズキする。
「ゴメン…悪かったよ…」
アキラは一言そう謝ると、しゃくり上げるヒカルの手を引いて改札を出た。あそこはあまりに
人目がありすぎる。静かな場所に行きたかった。
(21)
駅のすぐ側に、小さな公園があった。辺りに人気はまったくない。いくら何でも静かすぎないか?
デート帰りのカップルが立ち寄るには早い時間なのだろうか…。人気のない場所にヒカルを
引っ張り込んだと、誤解されはしないかとドキドキした。
アキラは、手近なベンチに彼を座らせ、自分も隣に腰を下ろした。ヒカルは未だに
シクシクと泣き続けている。
「悪かったよ…」
二度目の謝罪を口にする。
「……で………だよ………」
ヒカルが何か言ったが、しゃくり上げながらだったので聞き取れなかった。
「何?」
「なんで…オレには…意地悪ばっか…するん…だよ…」
―――――え?何?意地悪?ボクが?進藤に?
アキラはポカンと口を開けた。
「他のヤツには優しいのに……オレには怒ってばっかだし…」
「ちょっと冗談言っただけで…すぐ“ふざけるな”って怒鳴るし…」
確かにヒカルの言う通りだ。
―――――でも、それは………
親愛の情の表れというヤツだ。他の連中のことなど、ほとんど眼中にないのだ。視界に入って
こないものに対して腹を立てる必要などない。ヒカルだから――ヒカルのやることだから
何でも気になるし、目につくのだ。
だけど、それがヒカルには伝わっていなかった。
『ちょっと、ショックだ…』
親しい相手にだけ見せる本当の自分を、ヒカルも理解してくれていると思っていた。でも
それは、どうやら自分の思いこみだったらしい。アキラは反省した。
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