失着点・龍界編 20 - 21


(20)
「…警察に行くぞ。今度こそ…。」
感情を抑えた静かな口調程に緒方の怒りの激しさが示されていた。
「…それはできない…」
「どうしてだ」
「オレの友だちが…同じ中学の…そいつが…」
「いいから詳しく話せ。」
ヒカルは恐怖感に歯を食いしばり、つまりながらも夕べのあらましを緒方に
話した。途中で緒方はタバコを握りつぶし、話の続きを促す。ようやく解放
されてその後で事故に遭ったところまで話し、ヒカルは息をついた。
「…オレ、もう…アキラに会えない…」
「何故そう思う」
「だって…知らない奴のを口で…オレ…汚い…」
緒方がヒカルの顎を優しく持ち上げ、顔を寄せて来る。
「だ、ダメだよ、緒方先生…!」
ヒカルは緒方の意図を察して緒方の手から逃れようとする。
「お前は汚れてなんかいないよ」
緒方の唇がヒカルの唇を塞ぎ、ゆっくりと舌で中を辿る。
拒絶の反応を示していたヒカルも直ぐに体の力を抜き、緒方の
行為を受け入れる。
好きとか、そういう感情とは違う。アキラと交わすものとは異質の、
ただただ親愛のような、強くて深く温かいものを唇を通して
ヒカルは緒方から感じ、受け取っていた。


(21)
ゆっくりとヒカルから顔を離すと緒方は優しくヒカルの頬を撫でた。
夕暮れの淡い赤い光が足早に不穏な闇を連れて来ようとしている。
「オレなりに調べてみる。君は早く体調を戻して復帰する事だけ考えろ。
何も心配するな。二度とその場所には近付くな。」
そう言って緒方は行こうとした。ヒカルはあの事で改めて念を押す為に
緒方を呼び止めた。
「緒方さん、携帯が…」
「携帯?」
「オレの携帯、あいつらに取られちゃって…もしかしたら塔矢の連絡先とか
知られたかもしれない」
母親には「落とした」と言って手続きは頼んでおいた。中の情報は
そんなに入ってはいないとはいえ、知られて悪用される恐れはあった。
少なくとも自分が囲碁界関係の人間である事は分かったはずだ。
たとえ三谷が彼等に何も言わなかったとしても。
「わかった。それとなくアキラ君に注意をしておくよ。」
緒方はもう一度ヒカルに最初に三谷が男達と出て来たビルの場所を
確認して立ち去った。
緒方にはそう言ってもらえたものの、ヒカルはまだ何か良くない事が起きる
ような不安な気持ちの中に取り残された。
「…三谷」
男達の間で悲鳴をあげていた三谷が、痛々しかった。なのに何も出来なかった
自分が、情けなくて腹立だしかった。



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