初めての体験+Aside 20 - 21
(20)
「お湯がない」と可愛く訴えるヒカルに
「沸かしてこいよ。」
と、アキラは傲慢とも取れる言い方で返した。いつものアキラなら、こんな言い方をしない。
―――――関白宣言!?いや、それより進藤を台所に追いやって、その間にオレに何を
するつもりなんや!?
社の心臓はフルマラソンをした後のように、ドキドキしていた。
「え――!?お前が抜ける番じゃんか!」
ヒカルが言い返した。
―――――そうや!ガンバレ!進藤!
こんなに小さくて可愛いヒカルに頼るなんて、情けないことこの上ないが、この後の
展開が容易に想像できるだけに、是非ともヒカルにはがんばってもらいたいと切に願う
社であった。(長い上にくどい)
社が二人の戦いをドキドキしながら見守っていたとき、タイミング良く玄関のチャイムが
鳴らされた。
「倉田さんだろう。」
チッと小さく舌打ちをして、アキラは玄関へと向かった。
社はホッと胸をなで下ろすと、自分も台所にお湯を沸かしに行くために立ち上がった。
ヤカンに水を入れながら、ふと気が付いた。
「オレ、お湯とかお茶とかゆうとる…」
いつの間にかうつったらしい。
「もぉ―進藤が可愛いからオレにまでうつってしもたやんか(はあと)」
思わずヤカンに“の”の字を書いた。アキラも同じ言葉遣いだったことは、すでに
社の脳内から抹消されていた。
(21)
――――昼食後
「で、今日の晩飯のことなんだけど…」
食後の茶をすすりながら、倉田が放った一言だ。
『ちょお待て!いま昼飯喰ったばっかりやろが!しかもスシ三人前…』
そうツッコミたかった。だが、将来を嘱望される若手トップ棋士である先輩に対して
あまりにも無礼なような気がして黙っていた。
「オレ、カレーだったら作れるよ。」
ヒカルがニコニコと笑って言った。
―――――進藤のカレー!?
社は目を輝かせた。が、
「イヤ。」
無情に倉田はそれを却下した。
―――――こんのくされデブ―――――――!!!!(極太)
仮にも将来を嘱望される若手トップ棋士である先輩に対して、心の中でとはいえ、社は
無礼なことを叫んだ。社のそのめいっぱいのシャウトにアキラの声がかぶさって聞こえたのは、
気のせいではないだろう。
「なんでえ?」
ヒカルが口をとがらせた。
「昨日喰った。」
ハア?フツー喰うだろ?昨日どころか、一週間ずっとカレーだったとしてもヒカルのカレーなら
食べるだろ?向こう十年三六五日毎日カレーでも食べるだろ?喰うべきだ!
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