うたかた 20 - 21
(20)
家に連れ帰って二日目に、そのウサギは冷たくなった。
(────まだ名前も決めてないのに。)
電気を点けるのも忘れて、薄暗い部屋で加賀はウサギの横顔を見つめた。
『ウサギは寂しがり屋でね、』
ウサギ売りの声が耳の奥でよみがえった。
こいつを受け取ったときに聞いた言葉。
『ウサギは寂しがり屋でね、愛情を惜しみなく注いでやらないと、すぐに死んでしまうんだよ。』
自分がウサギに注ぐ愛情は、不足していたのだろうか。
「おい、ウサギ」
横たわるウサギの赤い瞳は、もう開かない。
「ごめんな。」
(21)
ここは干拓地っていって、昔は海だった場所なのよ。
ほら、おばあちゃんの庭の砂には貝が混じっているでしょう。
のんびりした祖母の声を背中で聞きながら、加賀は貝の混じった砂を手で掘って、ウサギを埋めた。
黄色いウサギはどんどん見えなくなる。
もう二度と、動物は飼うまいと思った。
────飼うまいと、思ったのにな。
あれから十年あまりの月日が経った今、やはり自分は仔ウサギを欲していた。
愛情が足りないと死んでしまう仔ウサギ。
「……ヒカル」
金色の前髪を優しく撫でて、加賀は何度もヒカルの名を呼んだ。
一度達したヒカルはぐったりとしている。そのヒカルの横顔を見て、加賀はヒカルの肩を揺すった。
「進藤、」
ゆっくりと、ヒカルが瞼を開いて加賀を見る。
「瞳を閉じるな。」
頬を上気させたまま、ヒカルは不思議そうに小さく頷いた。
それを確認してから、加賀はヒカルの奥まった場所に指を差し入れる。
「ん、イタ…いっ…」
ヒカルが放ったものを塗り込んではいるが、初めて異物を受け入れるそこは、まだ固く閉ざしたままだった。
怖々やっても余計痛いだけだ。
そう判断した加賀は、力を加えて一気に中指を根本まで押し込んだ。
「ああぁっ…!」
悲鳴のような声が上がる。
(……前立腺ってどこだ?)
男はそこがイイらしい、というのは知識として知っていた。でも場所まではよくわからない。探るように中で色んな箇所を突いてみる。
「いた…っあ、…痛い‥っ…」
辛そうに眉根を寄せて、加賀の肩を弱く叩いてくるヒカルの髪の先は、涙ですっかり濡れていた。
「ぁんっ…」
加賀の指がある一点に触れたとき、さっきまでの苦痛に満ちたものとは明らかに違う甘い声がヒカルの唇から漏れた。発した本人であるヒカルも驚いたのだろう、思わず両手で口を押さえている。
加賀は自分の中に、新たに情欲が湧き上がるのを感じながら、ヒカルの腕を掴んだ。
「もっと声聞かせろよ…。」
首を横に振るヒカルの真っ赤な頬に音を立てて口づけて、加賀はもう一度同じ場所を指の腹で擦った。
「やっ…!」
逃げる腰を押さえ込んで、角度を変え、強弱を変え、執拗に攻め立てる。
「ん、あぁっ!…あ、…っ」
侵入の痛みで萎えていたヒカル自身が、みるみる元気を取り戻すのを見て、加賀はヒカルの中に指をもう一本忍ばせた。
「ぅあっ!や、だめ……いってぇ…ッ」
「だめったって、せめてこれが全部入んねーと。」
右手でヒカルの左足を持ち上げて広げると、少し指が奥に進んだ。
「ぜっ…たい‥ムリっ……」
搾るように出したその声は掠れていた。加賀の背中に回した手に、じっとりと嫌な汗がにじむ。
ヒカルの言葉を無視して、加賀は片方でヒカルの前を弄り、片方で更なる侵入を試みた。
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