平安幻想異聞録-異聞- 200


(200)
アキラが黒い布をかぶりなおし歩き出した。その背を見ながら、佐為は
何かを思い出しかけていた。今まで他のことに気が行っていて、心に
止まらなかった言葉だ。
「……竹林です。アキラ殿」
その言葉にアキラが肩越しに佐為を見た。
佐為は今日の、そして以前にヒカルを伴って座間達に遭った時の事を思い出して
いた。あの時も今日も、座間達は確かに言っていたのだ。『あの下弦の月の夜』
『竹林で』と。
「ヒカルが襲われたのは竹林です。間違いありません」
京と西の宮の間は四里。その道中にはいくつの竹林があるかしれない。十か、
二十か。
それでも、何の手がかりもなく闇雲に荒れ野を探し回るよりは遥かに
ましだった。



その女は白檀の香りをさせていた。
乳色をした肌は、磨かれた珊瑚のようなつややかさだ。
微笑めば牡丹の花が咲いたようにあでやかだった。
手招きで呼ばれて、ヒカルはフラフラとその女のそばに寄っていた。
女はその唐衣でヒカルを包むように抱きしめた。
ヒカルは女の顔を見上げた。その顔は美しかったが、その瞳の黒目は、ヤギの
ように横長につぶれて広がっていた。
これは人ではない。
とたんに正気が返り、ヒカルの全身の肌が泡立った。
女の口が開いた。真っ赤な口腔から蛇のように長い舌が垂れ下がった。



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