平安幻想異聞録-異聞- 201


(201)
ヒカルは渾身の力をこめて、その女を突き飛ばそうとしたが、どういうわけか
女の十二単衣の着物それ自体が、意思を持つ生き物であるかのように体に
絡みついて来た。
その信じられない重さに絶えられずヒカルが尻餅をつくと、そこに女が
体ごとのし掛かってきて、押し倒されたような形になってしまう。
ヒカルが更に女の体を押し戻そうと抵抗すると、女の長い髪がするすると
延びて絡みついてきて、まるでクモの巣に腕をとられたように 身動き
できなくなってしまった。
女の顔を見上げると、その瞳の奥にたぎる淫欲がまるで触れるように
はっきりと見える。
長い舌が延びて、ヒカルの夜着をはだけて、その肌をあらわにした。
「……ィヤ…ダ…っっ……」
舌が、ヒカルが昼間に作った糸のように細い首の傷跡に触れてたどった。
気色悪いはずなのに、思わず鼻にかかった声が口をついて出た。
女のその細い指先がヒカルの肌をつねる。痛いのにそこから不思議と熱が
広がる。爪の先を使って、ヒカルの全身に散らばる快感のツボを刺激するように、
体中を細かについばまれた。
ヌルヌルと長い舌はヒカルの肢体を下へ辿り、そのまだ柔らかいままの
陰茎に巻き付く。
その下肢の間のものをしごく絶妙の舌技と、奇妙な指技とに、時間が経つうちに、
すっかりとヒカルの体は解きほぐされていってしまった。
そうやって、ヒカルの体を喰らいやすいように柔らかく調理しておいて、
妖女はヒカルの足を開かせ、陰茎に巻き付いていた舌をほどくと、秘門の
入り口に押し当てた。
押し当てられたそれは、いつかの蠱毒の蔓にも似て、人の血の通ったもの
ではない。
粘土のように冷たく弾力のない物体だった。



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