平安幻想異聞録-異聞- 203
(203)
翌朝、出仕した佐為を待ち受けていたのは常ならない内裏の喧騒だった。
事情がわからず戸惑う佐為を賀茂アキラが内裏の外に連れ出した。
「いったい何の騒ぎです?」
「梅壺様が倒れられたのです」
「梅壺様が?」
アキラの話によれば、夕べ子の刻程だろうか、突然、帝の後宮の宮の
ひとつである凝華舎に雷が落ち、その直後、そこに住まわされている梅壺の
女御が倒れた。慌てて駆けつけた女房は、その梅壺の女御の頭に子供ほどの
大きさの鬼が二匹取り付いているのを見たという。女房の悲鳴に驚いた衛士が
駆けつけた時にはすでに鬼の姿はなかったが、梅壺の女御はそれきり目が
さめない。
「それで、僕達が呼ばれました。陰陽寮の人間が総出で祈祷をしてますよ。
僕も今朝、貴方と別れて家で寝つき、一刻もしないうちに起こされました」
そういえば、アキラの目の下には連日の壺探しによる以上のクマがある。
「梅壺様は確か今、帝の御子を身ごもってらっしゃると思いましたが」
「しかも、あの方は藤原行洋様の姪でいらっしゃる。…先ほどから藤原様も
珍しく青い顔をして清涼殿に詰めておいでですよ」
その梅壺女御が何らかの呪詛により倒れた。
いったい、その呪を放ったのは誰なのか?
「中途半端な呪詛ではありません。普通は誰かを殺めようとなどと考えても、
こうは急に倒れたりしないものです。少しずつ体が弱り心が弱りして命を
やせ細らされていくものです」
「よほど、力にたけた術師のしわざでしょうか?」
佐為の言葉にアキラは小さく首を振った。
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