平安幻想異聞録-異聞- 204


(204)
「それほどの力を持った者ならとっくに殿上の陰陽師にも名を知られている
 でしょう。よしんば、名もない外法の術師が呪をかけたのだとしても、
 これだけの大規模な呪法をおこなえば、陰陽寮のだれかが儀式の気配
 に気付きます。まぁ、抜け穴がないこともないのですが」
「抜け穴ですか?」
「はい。この方法なら、力の劣る陰陽師でも大きな呪を放つことができます。
 ――僕達が式神を呼びだし契約して主従関係を結ぶように、もっと力の大きな
 異界のものを呼びだして契約を結び、それに人を呪わせるのです。もっとも、
 その魔物が納得するだけの、それ相応の代償を用意することが必要ですが」
話を聞きながら佐為は、ふと母のことを思い出していた。自分の母も帝を
呪った呪詛を放った者として死に追いやられたのだ。
「行きましょう、佐為殿」
アキラの方を見ると、その手には大きな袋が握られ、そこから鋤や何かの
柄が見えて、彼がこれからすぐにでも例の蠱毒の壺をさがしに行くつもりなのが
わかった。
「いいのですか、アキラ殿? 陰陽師としての御仕事があるのでは…?」
「この件のせいで内裏は今、陰陽師だらけですよ。僕ひとりぐらい消えたって
 わかりはしません」
二人は、連れ立って歩き始めた。アキラがそのつもりなら、佐為も一度家に
帰って探索の道具を持ってこなければならない。
「佐為殿…、もし今夜中に壺が見つからなければ、式神を飛ばして近衛に
 直接例の場所を聞きだしましょう」
道すがら、小声で語りかけたこの年若い陰陽師の顔を、佐為は怪訝そうに見た。
「しかし、アキラ殿。昨日、3日ほど間を開けたいとおっしゃられたばかり
 では……?」
「事情が変わりました。――このままでは、近衛の命が危ない」



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