日記 205 - 207


(205)
 泊まって欲しい…………
この言葉を聞いたとき、ヒカルは心臓が止まりそうになった。アキラは自分とセックスを
するつもりだろうか?
 何度もこの部屋で抱き合った。その度、繰り返された睦言は、ヒカルを幸せにした。
 アキラが自分を求めるのは当然だ。ヒカルだってずっと求めていたのだから………
でも、怖い。それが、今の自分にとっては堪らなく辛くて、恐ろしい。だけど、それを越えられなければ
アキラの側にいられないのなら、耐えるべきだとも思う。
――――――でも……もし…もしも…ガマンできなかったら……? 
泣いて暴れて、それで呆れられたら? 
 それでもいたい………アキラの側にいたい…
「いいよ」たった一言伝えるだけなのに、恐ろしいほど精神を消耗した。

 アキラは心底嬉しそうな笑顔をヒカルに向けた。それが嬉しくて眩しくて、少し辛かった。
彼の期待に応えることが出来ないかもしれない………そう思うとこのまま逃げ出したいほど、
怖かった。

 「…………進藤…」
ヒカルはビクリと振り返った。考え事をしていたので、ずっと名前を呼ばれていたことに気付いて
いなかった。
「シャワー浴びておいでよ。その間に用意しておくから。」
「…………うん……」
ヒカルは口籠もった。やっぱり………と、小さく溜息を吐いた。気が重い。


(206)
 いつもしていたように、脱衣所の備え付けの棚から、タオルを取り出す。薄いペールイエローの
タオルとそれとお揃いのバスタオル。コレはヒカル専用だ。それから、ヒカルのパジャマと下着。
急に泊まったりすることが多いヒカルのために、どちらもアキラが気を利かせて用意して
くれたものだ。

 家で使っているのとは別のメーカーのボディーソープ。少し掌にとって、匂いを嗅いでみる。
「………塔矢の匂いだ……」
もっとその香に包まれたい。ヒカルはムキになって、それを目一杯スポンジで泡立てて、
身体中に擦りつける。ふんわりと優しい香が浴室いっぱいに広がった。
 たったこれだけのことでヒカルは簡単に幸せになれる。
―――――塔矢とだったら、大丈夫かもしれない………
 ふわふわ柔らかいバスタオルはヒカルを優しく包んでくれたし、糊のよく効いたサッカー地の
パジャマは気持ちがよかった。
それなのに、部屋の前まで来ると急に気持ちが怖じ気づいて、ドアを開ける手が震えた。
ヒカルは深呼吸して、ノブに手をかけた。カチリ―――と、音がした。そのままゆっくりドアを
押した。


(207)
 部屋の中にはいると、アキラはちょうどベッドのシーツを替えているところだった。夏らしい
薄いブルーのシーツの皺を綺麗に伸ばし、ベッドのマットレスの下に押し込んでいく。
 『やっぱり、しなきゃダメなのかな………』
少しやるせない気持ちになって、ヒカルは俯いた。
 だが、ふと視線を落とした先に、マットレスにタオルケットを掛けただけの簡素な床が
設えられているのを見つけた。

 ベッドメイクをし終わって、漸くヒカルに気付いたアキラが、振り返ってにっこり笑う。
「進藤、出てたのか?」
「………………うん……」
「進藤は、ベッドで寝て。ボクはこっちで寝るから………」
アキラは足下を指さした。
 ヒカルは黙ってアキラを見つめた。
――――――もしかしたら、塔矢は知っているのかもしれない………
それは、今日、ここに来たときからずっと感じていたことだった。今日のアキラはいつもと
は違う。
アキラは終始穏やかで、いつもの強引ともとれるような激情をぶつけては来なかった。

 「………………………いいの?」
ここにいてもいいの?セックス出来なくてもいいの?それでも、側にいていいの?
「いいよ。進藤はお客様だからね。」
アキラは笑って答えた。ヒカルの言葉をアキラがどう捉えたのかはわからない。本当に
そのままの意味にとったのか、それともわかっていてワザとはぐらかして答えたのか………。
「先に寝てて。ボクもシャワー浴びてくるから。」
おやすみ―――――と、一言残してアキラは部屋を出て行った。



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