平安幻想異聞録-異聞- 206 - 210


(206)
いつのまにか、ヒカルは自分から求めるように、体を男の下肢に押し付けて
いた。
肌を火照らせながらも、与えられない決定的な何かに、今にも泣きそうな顔で
男を見上げるヒカルの膝からカクンと力が抜けた。
その場にくずれるように座り込んでしまう。
男が音もさせずに、自らの腰の革帯をほどき、胴着の前をくつろげると、
ヒカルは自発的に男の袴に手を伸ばし、帯をほどいて、半立ちになっている
男の淫物を取りだした。
自然な動きで口を寄せ、やがて、自分の中に押し入れられるのだろうそれを
舌で愛撫する。
男が腰をかがめた。そのままヒカルの顔と同じ高さに自分の顔をもってきて、
口付ける。ヒカルは抵抗もなくそれを受け入れた。
熱っぽく潤むヒカルの視界に、自分に覆いかぶさる男の広い肩が見えた。
力強い腕に背と臀部を支えられながら、押し倒されたのがわかった。
男がヒカルの夜着を脱がせた。
背中に当たった夜の空気にさらされた床の冷たさが、意識の隙間に入り込み、
それが幽かにヒカルの正気を呼び戻した。
自分の状況に気付き、ヒカルは慌てて自分の体にまわされた腕をほどこうとする。
男は笑っている。
これは魔物。淫の気を喰らう魔物だ。
さらに抵抗しようとしたヒカルは、何か別の者に手をとられた。驚いて頭の
上の方を見た。
そこには鬼が1匹はいつくばって、ヒカルの手を、床に押さえつけていた。


(207)
鬼はカエルのように大きな口をして、土気色の肌をしていた。
唇の端から黄色い牙が覗いていた。
鬼に手を押さえつけられながら、それを振りほどこうとするヒカルを、
のしかかる魔性の男が、うっすらと流麗な笑を浮かべて眺めていた。
まるで、この暴れる獲物をどう料理しようか楽しんでいるようだった
ヒカルは今の今まで自分がこ魔物に心を奪われていたことに気付き、
あらためて悪寒に身を震わせた。
さっきも、昨日の女もそうだった。この魔物は人の体だけでなく、心も操るのだ。
そうやって、ヒカル自身が知らぬうちにヒカルを自分の腕の中に招き入れ、
精気を貪りつくすのだ。
男がついに獲物の料理の仕方を決めたらしい。
あざやかに笑って強くヒカルを抱きしめた。
胸の中に直接手を入れられるような奇妙な感覚、ヒカルはうろたえて、
抗うように男の体を肩で押しのけようとしたが、すでにその時、
人の心をもあやつる魔物は、ひとつの心象をヒカルの頭の中に送り
込んでいた。
(――佐為!)
突然、佐為に抱きしめられているような錯覚が起こった。そんなはずないと、
こんな所に居るわけがないと分かっているのに、その腕の温もりは確かに
佐為のもの。浅く菊の香の混じった薄い汗の匂いは確かに佐為のものとしか
思えないほどに生々しい。


(208)
頭の隅の何処かが、これは魔物の手だと警告するのに、
自分を抱きしめるのが佐為なのだと思った途端、体の温度が上がった。
肌に噛みつかれるような乱暴な愛撫にも体が悦んでざわめいた。
抵抗しようとしていた体から力が抜けた。
佐為の唇が頬から首、鎖骨、胸やヘソの上を、赤い印を残すように
吸い立てながら移動していく感覚を、貪欲に受け止める。
唇が、ヒカルの下腹部にたどりつき、屹立しはじめた陰茎を舌で愛撫し
はじめた。やがて美しい人の口が、自分の幼い男根を含み、しっぽりと
飲み込み、舌でしごきたてる感覚に、ヒカルはあっという間に蕩かされて
果てた。
佐為が、片足に手を添えて、さらに足を開くように即す。
ヒカルは、自らその片足を、佐為の肩の上に持ち上げて乗せた。
佐為に求められれば、ヒカルは何でもしてやりたくなってしまう。
甘やかしてやりたくなってしまうのだ。
優しくて、誰より傷付きやすい佐為。
どんな恥ずかしい格好も、どんなにあられもない嬌声をあげることも平気だと
思えてしまう。
――佐為、おまえにオレの心も体も全部やるよ。
――だから、おまえずっとオレの側にいろよ。
再び、その幼い男根への舌戯がはじまった。
腕を押さえつけられ、鬼に上体の自由を奪われたまま、
反り返ったヒカルの喉が倒錯的にヒクヒクと震えた。
蕩けるような声が、灯明のひとつも灯されていない暗い部屋に響いた。
「…そこはっ…ヤ…」
陰茎を愛撫していた佐為の唇が、小振りな陰嚢に降り、さらに秘口の
入り口に触れたのだ。
だが、ヒカルは羞恥に頬を染めながら、足を閉じようとはしなかった。


(209)
佐為はさんざんにそこの襞を舌で舐め、指でいじってくつろげて受け入れる
用意を整えさせると、和らいだ門扉に固いものを押し当てた。
そして、それが中に押し込まれる感触に、ヒカルは怖気がして目が覚めた。
――これは、佐為じゃない。
それどころか、人のものでもない。
今、ヒカルの中に入って来ようとしているこれは、形状こそ佐為に似せて
いるものの、ぬるくてねっとりとしていて、よそよそしくて、うどん粉を
その形に固めたものを中に押し込まれたような感触しかない。
「……くっ…!」
幻惑されていた感覚が戻ってくるとすぐに、自分を貫く男が佐為ではなく、
あの淫の魔性の者なのだということが理解できた。
咄嗟に、自分の腕を戒める鬼の手に逆らい、反抗を試みたが、床に
縫い付らけれた上体はビクともせず、下肢は今しも、人でないものに
犯されようとしていた。
慌てて足を閉じようとしたが、男の姿をした魔物は肩に上がったヒカルの足を
強い力で抱えてそれを阻止する。
男の指がふくらはぎに食い込んでいた。
そのまま魔物の陰物がヒカルの中に飲み込まれる。
ヒカルが小さく呻いた。
一度開かれてしまった心と体は、それに逆らえなかった。
佐為の形状に形を似せた魔物のそれが、中の壁を確かめて叩く感触に、
体が先を求めて小さく震えた


(210)
涙が出てきた。快楽のためでもなければ、恐怖の為でもない。
悔しさのための涙だった。悔しくて悔しくてしょうがない。そんな風に、
自分の心の中に侵入して佐為のことまで穢されるのはたまらなかった。
佐為のはこんなのじゃない。ヒカルの内壁にピタリと吸い付くように
丁度いい大きさや形は似ていたが、本当の佐為のそれは、熱くて、
ヒカルの中にいるときは普段のかの人の穏やかさからは想像も出来ないほど
猛く脈打って、ヒカルの体も、そして心も一杯にしてしまうのだ。
魔物がヒカルの思考を現実に引き戻すように体をゆする。無慈悲に
律動を始める。
同時に、手で肌をまさぐりつつ、そのヘソの中まで舌を差し込んで
舐めて愛撫する。
彼はもはや、佐為の幻影を見せてヒカルの心に隙を作ろうなどという
周りくどいことはしなくなった。体さえ飛び越して、頭の一番奥の部分に、
直接快楽を流し込んできた。
「あぁぁ、あぁぁっ、あぁぁっ」
魔物に中と外からを責められて、ヒカルが大きな声を上げて身悶える。
その上、魔物はもっとよい声を聞かせろと、その痴態を楽しませろとでも
言うように、ヒカルが達しそうになると、その中の責め手をゆるめて
しまうのだ。そして、しばらくすると再び激しくヒカルのいい場所をこすり、
腰ごと揺すりたてる。
「やだ、…っ、お願い、イカせて、イカせて………っっ、あぁっ」
残酷なまでに上手い手管だった。
人であったら、絶えきれず既にヒカルの中に2度3度と放って
終わってしまっているところであったが、淫の妖しゆえに、
そちらの楽しみ方、人の身の神経の扱いもこの魔物は極めているのか、
ヒカルは快楽の岸辺でいいように玩ばれる。
「あぁぁっ、あぁっ…はぁん……ぁ……ぁああっ、ぁああっ」
憑かれたように途切れなく喘ぎ、啜り泣きつづける
閉じることの出来ないヒカルの口に、人の腕ほどもある太い何かが
押し込まれた。



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